“東京五輪代表・鈴木亜由子の大学4年間” 支えた指導者の力に迫る(中編)
東京五輪女子マラソン代表・鈴木亜由子選手(日本郵政グループ)。女子マラソン・駅伝ファンならほとんどの方が知っているだろう。昨年9月15日に行われたMGCで2位となり、東京五輪マラソン代表となった。4年前のリオ五輪でも5000m・10000m代表、世界選手権(2015年・2017年)でも代表を経験した。仙台で行われるクイーンズ駅伝(全日本実業団女子駅伝)でも2度の優勝、日本選手権やクイーンズ駅伝のポスターにも登場する日本女子長距離界の”顔”だ。 鈴木選手は中学時代に「天才少女」として注目されたが、高校時代は故障で低迷。名古屋大学で見事に復活したのだが、彼女は4年間をどのように過ごしたのだろうか。当時名古屋大学の監督として鈴木選手を指導した金尾洋治氏に当時について伺い、前編では大学時代の実績と学業との両立とそれを支えた金尾氏の指導内容に触れた。中編では飛躍の要因、強さの秘密に迫る。
飛躍の要因~才能に対する自覚~
――鈴木選手は大学4年間で輝かしい成績を残しました。なぜこれだけの成績を残せたのでしょうか? 才能を持っていたから、そして自分が持つ才能を大切にしていたからだと思います。 大学生になると受験勉強から解放され、自由時間が増えます。学業以外にアルバイトや旅行など様々なことを経験する学生が多いのですが、陸上競技で結果を残したければそういった「普通の学生生活」から離れ、陸上競技中心の生活を送る必要が出てきます。そんな中で亜由子は自分の才能を大切にしていたから、それを受け入れて陸上競技中心の生活を4年間継続できた。 「自分が持つ才能は望んで得られるものではない」という自覚と感謝、「五輪を目指す陸上選手として生きていく」という覚悟、そして「自分の才能を活かせる陸上競技が好き」という愛着。これらがあったから私が生活面に一切関与することがなくても4年間陸上競技中心の生活ができたのだと思います。 陸上競技の中でも長距離走は単調な練習が多く辛い競技です。そして食事や休養・睡眠も練習と同じくらい重要で普段の生活でも節制が必要な「我慢の競技」です。だからこそ「好き」でなくては続けられない。指導者として最も重要な役割は選手の「好き」という気持ちを保てるようにすること、「嫌い」になる要因を排除することだと考えています。 ――才能を大切にし、陸上競技を「好き」でいられたのは高校時代の故障の経験も関係しているのでしょうか? そうかもしれませんが、わかりません。辛い経験だから本人に聞いたこともないし、本人から話してきたこともない。私も過去を振り返らず前だけを向いて行こう、と考えていましたし、彼女ともそう話していましたから。 陸上競技を「好き」でいることを大切にする金尾氏。我慢が大切な競技において、管理によって我慢させるのではなく「好き」であることによって自発的な我慢を求めるスタイルだ。 「陸上競技中心の節制した生活」はアスリートであれば当たり前のことに見えるが、簡単ではない。大半の駅伝強豪校では専用の寮で監督とともに集団生活することによって実現している。一方、鈴木選手はそれを高い自己管理能力で実現した。それが大学時代の飛躍の要因であり、今の強さの秘密なのだろう。