【世界のEVに追いつき追い越せ】ホンダ「全固体電池」の実現に一歩 栃木で挑戦始まる
強みは「挑戦を恐れない姿勢」
ホンダは以前からEVや燃料電池車など電動技術に取り組んできたが、今では他メーカーのリードを許している。初の量産EVであるホンダeは販売が伸び悩んで3年余りで生産終了となり、第2弾のe:Ny1もいまひとつ存在感を発揮できていない。 世界各地でEVへの需要が踊り場を迎えている中、ホンダはここから先を「普及期」と見て、電動化を加速させる構えだ。中国勢や韓国勢とのさらなる競争激化も見込んで、いわば切り札として全固体電池の実用化に邁進している。この点はトヨタや日産も同様だが、ホンダの真の強みとは何だろうか? AUTOCAR英国編集部のジェームズ・アトウッド記者はホンダに関する最近の記事(日本語版は11月19日公開)で、「おそらくホンダは、イノベーションを強いられたときに最高のパフォーマンスを発揮するのだろう」と評した。 これには筆者も同感である。今ホンダが追い詰められている、とまでは思わないが、変革を迫られていることは間違いない。気がかりも残るものの、F1参戦や初代NSX、ホンダ・ジェットのときのような驚くべき跳躍を見せてくれるのではないかという期待感がある。 しかし、早い段階で全固体電池の実用化に成功したとしても、次の日の朝から左団扇で悠々と過ごせるわけではない。言うまでもないが、重要なのは全固体電池という部品を使って、どんなクルマを作り、いつ、どこで、どう売るかだ。 ホンダは全固体電池の本格的な量産開始について2020年代後半を目標としているが、今のところ、どのようなモデルに採用するかは明らかにしていない。開発に携わる本田技術研究所のエンジニアによると、電池が大きい方がメリットも大きくなることからハイブリッド車への搭載はあまり想定していないという。 全固体電池の特性から、日常的に使うような(例えばホンダeのような)小型EVでこそ本領を発揮できるかもしれない。日本では軽自動車への採用も期待できる。もちろん、当初はコストも高いはずなので、本当に手頃なEVが実現するのは早くても2030年代後半だろうと思われる。 充電インフラなど社会的な課題はあるが、EV用の全固体電池が普及すれば、今よりもEVが一段と身近な存在になり、また安全性の向上に伴って多くの人命や財産を守ることにもつながるはずだ。運転や所有体験が楽しくなると、なお望ましい。 そんな未来に向けて、ホンダは挑戦を恐れず、一歩ずつ着実に進んでいる。年初の報せに期待したい。
林汰久也(執筆)