簡単でない零細企業の「休業者」復職、賃金は生活保護レベル?
零細企業は資本装備率が低いため生産性が低く、非正規雇用者が多いので、コロナ不況で人員を大きく減らした。それだけでなく店舗や設備などの固定資産も減らした。 【この記事の画像を見る】 固定資産を元の水準に戻すのは容易ではないので、コロナ後に需要が回復しても、対応して売り上げを増やすことができない。 仮に「休業者」が戻ってくると、かつてより資本装備率は下がるから賃金は以前よりも低下する。簡単には復職できそうにない状況が予想される。 ● コロナ不況で格差さらに拡大 零細企業の人員削減率が高い 日本では、賃金水準などさまざまな指標について企業規模によって大きな格差がある。 この格差は新型コロナウイルスによってもたらされた不況でさらに拡大している。 それは、まずコロナ不況に対応する人員削減率に現れている。
2020年の人員数を19年と比べてみよう(法人企業統計調査によって得られる最新データである7~9月期についての比較)(図表1参照)。 以下では、資本金10億円以上の企業を「大企業」と呼び、資本金1000万~2000万円の企業を「零細企業」と呼ぶことにする。 大企業ではこの1年間に人員を1.7%しか削減していないが、零細企業では6.8%も減少した。 こうした差が生じるのは、非正規雇用者が零細企業に多く、そして非正規雇用者は削減が比較的容易だからだろう。 削減された人々の多くは雇用統計では「休業者」になっており、雇用調整助成金で支えられていると考えられる(注)。 (注)法人企業統計調査による人員の削減数は103万人(2019年7~9月から20年7~9月の間)。休業者のうち雇用者は20年8月で175万人。雇用調整助成金の支給決定件数は20年8月で96万人(12月末では242万人)。これらは、正確には一致しないが、ほぼ同程度の数字だ。 ● 非正規雇用が多いのは 資本装備率が低いため 零細企業で非正規雇用者が多くなる基本的な原因は生産性が低いことだ。 そして、生産性が低い基本的な原因は資本装備率(1人当たり固定資産)が低いことだ。 図表1に示すように、1人当たり固定資産は大企業では8529万円だが、零細企業では1112万円であり7.7倍の格差がある。 この結果、従業員1人当たりの四半期の報酬(賃金+賞与)は大企業では142万円だが、零細企業では82万円で1.7倍の格差がある。 コブダグラス生産関数を用いた分配の理論によれば、資本装備率の比率がrである場合に、賃金の比率は、rの(1-α)乗になる。ここでαは労働の分配率である。αが0.74であるとすると、上の結果を説明できる。 ● 人員だけでなく固定資産も減少 宿泊、娯楽業は半分以下に 人員の削減はコロナ不況による売り上げの急減に対処するための一時的なものだろう。実際、上で指摘したように、削減された人の多くは解雇されたのではなく「休業者」になっていると思われる。