『チ。―地球の運動について―』小西克幸が仁見紗綾の印象を語る「スーパー新人が現れたなって思いました」
毎週土曜日にTVアニメ『チ。―地球の運動について―』が放送されている。第26回手塚治虫文化賞のマンガ大賞など数々の賞を席巻した作家・魚豊による本作は、地動説を証明することに自らの信念と命を懸けた者たちの物語だ。 【写真を見る】「チ。―地球の運動について―」に出演する小西克幸と仁見紗綾が語る作品の魅力とは? 舞台は15世紀のヨーロッパ某国。飛び級で大学への進学を認められた神童・ラファウは、周囲の期待に応え、当時最も重要とされていた神学を専攻すると宣言する。しかし、以前から熱心に打ち込んでいる天文への情熱は捨てられずにいた。ある日、フベルトという謎めいた学者と出会いから、宇宙に関する衝撃的な「ある仮説」と出会うーー。 今回は超がつくほどネガティブ思考の代闘士・オクジー役の小西克幸と異端解放戦線組織長で「地動説」を後世に繋ごうと奮闘するヨレンタ役の仁見紗綾にインタビューを行い、作品の魅力からお互いの印象まで語ってもらった。 ――まずは本作のストーリーについてお聞きしたいのですが、小西さんは元々読者だったそうですね。 小西「そうなんです。僕、漫画が大好きなので普段からいろんな作品を読んでいて、漫画アプリのライブラリには1万7000冊くらいあるんです。どのタイミングかは忘れてしまったのですが、たまたま漫画を探している時に、『チ。』というシンプルなタイトルが気になって読み始めました。地動説という難しい話はよく分からなくても、地動説に懸ける人たちの情熱や覚悟にすごく感銘を受けました」 ――そこが本作の魅力ですよね。 小西「その時代に生きている人たちに心を動かされて、めちゃくちゃ面白いな、と。当時とは時代背景も違うので一概には言えないのですが、僕は命を懸けてまで曲げられない信念ってきっと持ち合わせていないと思うんですよ。例えば、大好きな漫画を読んだら死ぬかも知れませんと言われたら、潔く読むのを止めると思いますし(笑)。でも、本作では決死の覚悟を持って、時代と戦っている。それが次の世代に受け継がれていって、大きなうねりになって、時代が変わっていく。それがすごくかっこよくて惹き込まれました。やっぱり僕ら人間って知恵があるのでどうしても休んでしまうじゃないですか。そうではなくて何かを追求するために自分の中に炎を灯した状態で走り続けているのが素敵だなと思いました」 ――小西さんは命を懸けているものはありますか? 小西「ないです、ないです(笑)。例えば病気になって、もう治療しないと声優の仕事はできなくなりますと言われたら、治療しないで声優の仕事やりますとは言うと思いますけど、それって究極の選択じゃないですか。そこまで行かないと覚悟はできないですね」 ――仁見さんはいかがですか? 仁見「すごく重みのある作品だなというのが第一印象です。こんなに1つのことだけに熱中したことってあったかなとか、命を懸けてもいいことに出会えているかなとか、自分を振り返るタイミングがあったりして。読んでいる時の自分の気持ちによって引っかかる言葉とか気になる箇所が全然違ってくるんだろうなと思いました」 ――演じられたキャラクターについてはどのように感じましたか? 小西「スーパーネガティブ人間です。ただのネガティブ人間ではなくてスーパーがつくぐらいのネガティブ人間なんですけど、当時は天国に行くことでようやく幸せになれるという宗教の教えがあったのでそういう考えになっているんです。でも、いろんな人と出会って、少しずつ変わっていくところも含めてすごく魅力的なキャラクターです」 ――小西さんはこれまで強めのキャラクターを演じることが多かったので、常に卑屈なオクジーは新鮮に感じました。演じる上で強弱のバランスは意識されましたか? 小西「今回に関してはあまり意識しませんでした。リアルな世界観なので、あれこれと難しく考えるよりも、オクジーというキャラクターがその空間にいてその時代に本当に生きてると感じてもらえるように、演じるというよりは彼が感じたり考えたりしていることを大切にしました」 仁見「ヨレンタの登場シーンを見た時に、面白い子だなと思いましたね。研究会の盗み聞きのために全力で走っているんですけど、理性が負けて本能が突っ走っているその一生懸命な姿は共感しました。ただ、女性として生きることの苦しさみたいなものもある中で、そういったことは一切考えずに突き進むまっすぐさを意識して演じました」 ――ヨレンタは14歳の女の子にも関わらず、強い女性として描かれています。それでいて自分の感情に素直な一面もあって。 仁見「そうなんです。初回の収録の時に、音響監督さんにテストの音声を聞いていただいたら『もっと居心地の悪さを感じてていいよ』と言われて。ヨレンタは傷つく時もあるけど、そこからまた頑張る子なんだというのが分かったので、より素直にいることをすごく大事にするようになりました」 ――今回共演されてお互いの印象はいかがでしたか? 小西「まだデビューしてから1年ぐらいとおっしゃっていたんですけど、めちゃくちゃ上手だなと思いました。スーパー新人が現れたなって(笑)。音響監督さんから聞いたんですけど、仁見さんにはもうオッケーなお芝居をしていても、もっとできるだろうという期待を込めて、いろいろなディレクションをしてチャレンジしてもらったそうなんです」 仁見「そうなんですか? 初めて聞きました。聞けて良かったです」 ――仁見さんはいかがでしたか? 仁見「本物だ~って思いました(笑)。マイクの前に立っている姿が本当に美しくて...。私はまだアフレコの経験がほとんどない状態での収録というのもあって、マネージャーさんからも『小西さんのマイク前の姿勢をちゃんと見ておくんだよ』と言われていたんです。実際に初めて見たら自然体でいらっしゃるのに、全身でお芝居をされていて、これが第一線で活躍している先輩なんだと思いながら、たくさん勉強させていただきました」 小西「嬉しいですね。『チ。』って登場人物がそこまで多くないじゃないですか。だから、ありがたいことにマイクが1人1本でいいような状況だったんです。なので、マイクワークではなくて、役に集中してやれたのは環境としては良かったですよね」 仁見「助かりました。男性が多い現場というのは分かっていたので、事前に厚底を履いて慣れときなさいと言われていたんです。そしたら、ずっと同じマイクで収録できたので安心しました」 ――本作では天動説を覆す地動説がテーマになっていますが、「コペルニクス的転回」や「パラダイムシフト」にかけて、ご自身の中で人生が大きく変わったタイミングはありますか? 小西「地方から上京して、声優の養成所に通い始めたタイミングですね。それまではお芝居を全くやったことがない状態で、いきなり声優になりたいと思って飛び込んでしまって。初めてお芝居に触れて、演技ってこんなに面白いんだと思ったのがこの時期でした」 仁見「私は元々ナレーターを目指して、喋る世界に入ろうとしていたんですけど、専門学校の時にお芝居の授業も受けないといけない時があったんです。最初はもう読むしかできなくて喋るところまで持っていくことがどうしてもできなくて、自分に演技は向いていないのかもしれないと思った時期があったんですけど、舞台のお芝居のレッスンを受けている時に、ただ読むだけの状態から喋るという意識に変わった瞬間があって。そこからもっとお芝居をしたいと思うようになりました」 取材・文=川崎龍也 撮影=MISUMI
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