「植松くんのあの言葉は、時代の言葉」 昭和、平成、令和…32年、裏切られても支え続ける1人の牧師
「住み込みの寮は会社の福利厚生の一環で、借地借家法に守られた賃貸借契約を結んで入居するわけではない。そのため、通常であれば守られる居住権も守られず、雇い止めにあえば追い出されてしまう」 東京都ではコロナ禍で、こうした住居喪失者に対しビジネスホテルが提供された。しかし、ビジネスホテルから新たな住まいへの移行はスムーズにはいっておらず、再びネットカフェや路上へと戻る人々も確認されている。 「たとえ仕事を失ったとしても、住宅は失わない仕組みを作りたい。そのパイロット事業を作って、見せる。それが今回のプロジェクトの肝です」
住まいを確保、だけでは意味がない
「この取り組みは日本人の価値観すら問い直す」と奥田さんは言う。 「私が牧師になった1980年代終わり頃、リゲインという飲み物が流行っていました。宣伝文句は『24時間戦えますか』。当時、労働が全てという価値観はとても大きなものでした。『働かざる者、食うべからず』と当たり前のように言われてきた。でも、そんなの嘘ですよ。困窮者支援をしてきたからわかる。働いたから食べるではなく、食べた人が働けるんです」 「食べるということの方が先。それは絶対の権利だと思っています。人間である限り、生きるために食べるということは大前提でしょう。住まいも同じです。住み込みの仕事では仕事が先、住宅はおまけのように付いてくる。でも違うでしょう。安心して住むことのできる場所があるから、働ける。もし失敗したとしても戻ってこられる場所があるから、次の会社を探すことができる。僕は、住まいが大事、命が大事だという当たり前の順番へ戻したいんです」 では、雨風をしのぐことのできる最低限の住居だけがあればいいのか。そうではない、「相談できる人の存在が重要だ」と奥田さんは強調する。 浮き彫りとなるのは孤立の問題だ。主要20カ国の孤立率を調べたOECDの調査では、日本の孤立率は15.3%、アメリカの約5倍、イギリスの約3倍の値となっている。