SFかホラーか? 新たなる新境地を開いた貴志祐介新作を、池上冬樹さんとともに縦横無尽に語り尽くす
特にいま、人との接触が難しくなった時代に、孤独とは、生きること死ぬこととは? を考えさせられる、傑作エンターテインメント。 主人公に探偵を据え、依頼者の”前世”を探っていくという冒頭から、一気に引き込まれる展開を見せる本作品はどのように創られたのだろうか。 ***
オカルト風味を入れたいなというのが、最小の発想だった
池上冬樹(以下、池上) 貴志さんは『黒い家』で日本ホラー小説大賞(一九九七年)、『硝子のハンマー』で日本推理作家協会賞(二〇〇五年)、『新世界より』で日本SF大賞(〇八年)、圧倒的な犯罪小説である『悪の教典』で山田風太郎賞(一〇年)を受賞するなど様々なジャンルに挑戦している。ジャンルへの挑戦というよりも、ジャンルを熟知した上での新たな方向というか、誰もなしえなかったところに向かおうとしているのが、貴志文学の凄さかと思うのですが、最新作『我々は、みな孤独である』には驚きました。私立探偵茶畑徹朗が主人公なので、今度は私立探偵小説かなと思ったら、全く違っていた。一代で優良企業を作り上げた会社の会長から、「前世で自分を殺した犯人を捜してほしい」という不可思議な依頼を受ける。この発想はどこから生まれたのでしょう? 貴志祐介(以下、貴志)角川春樹事務所の新作、ということでオカルト風味というのを入れたいなと思っていました。ただプロットを作るにつれて、どんどん複雑化していった感じですね。前世を発展させようというのはありましたので、色々な前世のシーンをちりばめたくなった。 池上 前世の記憶がかなり古いものだから、時代小説の作家に依頼して、前世の記憶とおぼしきものを小説仕立てに作り上げて、事件や方言から推理をしていく。小説内小説というか、様々なテキストが出てくる。とくに時代小説ですね。 貴志 時代小説も書いてみたいと思っていたことがあったんです。ただ余りにもハードルが高いというか、一本丸々時代小説というのは無理かなと。やるからにはスーパーリアルにやりたいなというのがありまして、ですから昔の言葉や方言を厳密に使った。そういうものを多用して書きたいというのがあった。でも、あの長さが精一杯だった。 池上 なかなか堂にいっていて感心しました。時代小説にちょっと色気が出たのでは? 貴志 実はですね、松永弾正を書きたかったのですが、先に書かれてしまいました。天海僧正と金地院崇伝の話も書きたいなと思っていたんですが、それも書かれていますしね。本職の方と張り合うのは難しい(笑) 。 池上 でも、本職のミステリー作家としては見事です。前世をテーマにしていますが、そればかりではない。ネタがぎっしりとつまっている。前世の犯人捜しからはじまり、部下の失踪、元恋人の震災における謎の行動と死、会社のM&Aの機密漏洩と盛り沢山。 貴志 てんこ盛りにしたという感じはありますね。ただもうこれ以上入れると、収拾がつかないと思い、本誌連載のときは辻褄を合わせて最後まで書き切ったのですが、今回本にするにあたって読み返したら何かが足りないと思った。茶畑のラブストーリーの部分がほとんど欠落していたんですね。