お見合いは古い? 変わるインドの結婚事情…アカデミー賞インド代表選出『花嫁はどこへ?』監督に聞く
キラン・ラオのインタビュー
そしてこの度、監督・プロデューサーを務めたキラン・ラオにインタビューすることができた。 ──今作はジオスタジオ配給ですが、ジオスタジオは女性が主人公でいて、女性の強さを体現した作品を多く配給しています。例えば『Mimi』(2022)や『Mrs』(2023)などもそうですが、去年の東京国際映画祭で上映された『相撲ディーディー』(2023)もジオスタジオでした。その際に監督とプロデューサーの方にもインタビューしたのですが、スターが出演していなくても女性を強く描いたものであり、なおかつ物語が優れていれば協力してくれる体制があると言っていました。実際に今作においてジオスタジオが大きな助けとなったという感覚はありますか? キラン・ラオ監督 確かにプロモーションなどの部分で、ジオスタジオに気に入ってもらえたことは大きいですが、完成してから配給してもらうということが決まっていたので、作品自体に口を出すことは無かったです。 とくにプロデューサーのジョーティー・デーシュパーンデー(『Mrs』や『相撲ディーディー』のプロデューサー)は、進行的な女性の物語をもっと広めたいと思っている方なので、国際的にも展開したいという意思も強かったです。より多くの人のもとに作品が届いたのは、ジオスタジオのおかげですね。 ──今作のなかで”警察が怖い”という描かれ方がされています。結果的には良いエピソードとして扱われていて、極端な相手が心を動かされるのも時代の変化のひとつのように感じました。しかし他の作品を観ても、まだまだ警察があまり良く描かれていなかったり、権力者や富裕層ばかりに味方したりと、皮肉的に描かれていることが多くあると思います。ボリウッドではローヒト・シェッティが「シンガム」シリーズなどの「コップユニバース」のおかげで警察がヒーローとして扱われることも多くなってきたとはありますが、そもそも警察があまり良く描かれないことに国民性などの理由はあるのでしょうか? キラン・ラオ監督 興味深い質問ありがとうございます。今作のマノハル警部補(ラヴィ・キシャン)は、ふり幅が大きいキャラクターです。彼のモラルは、独自のものです。 ワイロを受け取っていながら、一方で夫に不当な扱いを受けていたジャヤ(プラティバー・ランター)のために立ち上がる人情も持ち合わせている。つまり人間は、状況や環境次第で変化するグレーな部分を持ち合わせており、マノハルは、それを体現しています。 “警察が怖い”というのは、状況次第で正義にも悪にもなる。最初から白黒付けられない不安感を表しています。今作のマノハルにおいては、結果的に弱者側についたものの、実際はそうとも限りません。 かつては融通がきかなくて、権力者に肩入れする、ステレオタイプな汚職警官がヒーローのように描かれていた時代もあったりしましたが、実際には中間的な警察がほとんどです。そのなかで極端にヒーローだったり、極端に汚職警官だったりするのは、クリエイターや俳優の警察に対するイメージも、ある程度反映されているのかもしれません。 インドで言えることは、ひとつの地域ごとに権力の在り方が全く違ってくるわけです。だからこそ、知らない地域の警察に行くというのは、より不安感は強いかもしれません。とくにアート系の映画では、極悪に描かれていたりします。 総合的に、警察組織が腐敗しているというのは、ある程度周知されていることかもしれません。かと言って、事件を見過ごすということではなく、腐敗のなかでも動いてくれたりしますから、複雑な存在ではありますね。 ──最近のウェブシリーズは自由度が高く、今までのインドのステレオタイプなイメージを覆すような攻めた作品や社会派なものが多くなってきていますが、キラン監督はウェブシリーズに興味はあったりしますか?また長い尺で描いてみたいテーマなどはありますか? キラン・ラオ監督 ご指摘の通りではあります。自由が与えられている部分はあります。普段扱えない攻めたコンテンツが取り上げられるという側面がある一方、インドでは政治的なものや、特定の人物を批判的に取り上げることが難しい実情もあります。 最近も実は会計士がジゴロという描かれ方をした作品(おそらくNetflixドラマ「トリブバン・ミシュラはCAトッパー」のこと)に対して会計士協会が名誉棄損として裁判を起こしたことがありました。 攻めたことはできないわけではないですが、いつ訴えられてしまうかもしれない状況から、それをどうやってクリエイティブに回避して、作品としてメッセージ性や質の高いものにするかは大きな課題ですね。 ▽ストーリー 2001年、とあるインドの村。プールとジャヤ、結婚式を終えた2人の花嫁は同じ満員列車に乗って花婿の家に向かっていた。だが、たまたま同じ赤いベールで顔が隠れていたことから、プールの夫のディーパクがかん違いしてジャヤを連れ帰ってしまう。置き去りにされたプールは内気で従順、何事もディーパクに頼りきりで彼の家の住所も電話番号もわからない。そんな彼女をみて、屋台の女主人が手を差し伸べる。一方、聡明で強情なジャヤはディーパクの家族に、なぜか夫と自分の名前を偽って告げる。果たして、2人の予想外の人生のゆくえは──? 【クレジット】 プロデューサー:アーミル・カーン、ジョーティー・デーシュパーンデー 監督・プロデューサー:キラン・ラオ 2024年|インド|ヒンディー語|124分|スコープ|カラー|5.1ch 原題Laapataa Ladies|日本語字幕 福永詩乃 応援:インド大使館 配給:松竹 (C) Aamir Khan Films LLP 2024
バフィー吉川