森失言で菅政権に大逆風、「謝罪で終了」とはならず
(舛添 要一:国際政治学者) 2月3日、東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長が「女性がたくさんいる会議は時間がかかる」と発言して、大きな批判が内外で巻き起こった。そのため、4日に、森会長は会見を開き、発言を撤回し、謝罪したが、五輪開催懐疑論を深めることになっている。 〈これはヤバイ「森失言」で五輪ボランティア消滅危機〉森喜朗・東京五輪・パラリンピック組織委員会会長 それは、五輪開催に全力をあげる菅政権にも逆風となっている。そして、逆風はこれだけではない。 ■ 違反したからといって、コロナ患者に懲役刑まで科そうとしていた感染症法改正案 新型コロナウイルスの感染は減少傾向にあるものの、重症者の増加で医療資源が逼迫し、医療崩壊が危惧されている。そのため、2月2日、菅首相は、栃木県を除く10都府県の緊急事態宣言を1カ月延長した。 2度目の緊急事態宣言を発したときには、1カ月で終わらせると明言したが、それを実現させることができなかった。今後の感染状況次第だが、予定通りに3月7日に宣言を全面解除できるのかどうかは、まだ定かではない。 また、3日には、国会では、違反者に過料を科すことを明記した感染症法と特措法の改正案が通過した。本来は、昨年春に緊急事態宣言を発令した後に、問題点を洗い出して、国会で改正の議論をすべきであった。しかし、それを8カ月も怠ってきた国会の責任は重い。そのため、審議も十分ではないまま、拙速で改正案を決めてしまったのである。 飲食店などは、休業や時短の補償金と罰則とが対になるべきであるし、入院拒否などの患者についても、入院できるだけの病床もない状態でのこの法改正はあまり説得力はない。対象者は「病人」だということを忘れてはならない。病人に懲役刑など論外であり、流石に、この点は与野党の協議で削除された。
与党のこの妥協の背景には、与党4議員の深夜の銀座クラブ通いがある。国民に外出自粛を、飲食店に20時までの営業短縮を要求しながらのこの事態は批判されてしかるべきである。公明党の遠山衆議院議員は議員辞職し、自民党の松本純国対委員長代理、田野瀬太道文部科学副大臣と大塚高司国会対策副委員長は、自民党を離党した。松本議員は、最初は一人で行っていたと述べていたが、それが嘘だったことが判明してしまっている。 与党幹部が自粛要請を無視しているのに、罰則規定を設ける法改正を行うことは説得力がなく、野党の批判に耳を傾けざるをえなかったのである。 コロナ対策の不首尾に加えて、この「深夜の銀座クラブ」問題は菅内閣の支持率をさらに低下させることになった。 1月29~31日に行われた日経新聞世論調査では、内閣支持率は43(+1)%とほぼ横ばいだが、「支持しない」が50(+2)%と、この新聞社の調査では、内閣発足以来、初めて50%台に乗った。その他の世論調査でも、不支持率が支持率を上回るのが常態となっている。政府のコロナ対策については、「評価する」は33%で、「評価しない」が61%となっている。 ■ 地方選で連敗 与党幹部の不祥事は、地方選挙にも深刻な影響を与えている。1月31日に行われた政令指定都市、北九州市の市議会選挙と東京都の千代田区長選挙などで、自民党は敗北している。 北九州市では81人が立候補していたが、自民党は、公認候補22人中6人が落選という大惨敗を喫している。公明党は13人の候補者が全員当選し、現有議席を維持したが、得票数は減っている。共産党は8人の候補者全員が当選し、現有議席を維持した。立憲民主党は7人の候補者全員が当選し、2議席を増やした。日本維新の会は3人が当選し、前回失った議席を奪還した。 千代田区長選挙では、都民ファーストの会所属の都議会議員だった樋口高顕候補が9,534票を獲得し、自民党と公明党が推薦する早尾恭一候補(7,668票)を破って当選した。樋口氏は小池都知事側近であり、小池都知事も選挙応援に出かけている。 7月4日には都議会選挙が行われる。千代田区長選はその前哨戦であったが、自公両党には大きな打撃となっている。