“フェラーリ”を語れることの重要性とは? 新型ローマの官能さ
何度も出会ってみたい驚き
話に夢中になっているうちに約束の終了時間が迫ってきた。前述の通りCovid-19 の影響で非常に厳密な安全対策がとられている。時間超過というわけにはいかない。なにを聞いても嫌な顔をしないことで逆に頼むことが憚れていたが、思い切ってスロットルを全開にすることは可能か? と、切り出してみた。 彼がローマの鼻先を向けたのは畑のなかの1本道。走るクルマもヒトもまったく見当たらない場所。長いストレートではないが、「ここでのみ、テストドライバーに限って」という条件で地元警察との話し合いが付いている模様。 さっきまで笑い転げていたルイージは、さっきまでとまったく変わらぬ彼のままアクセルを踏み込んだ。 一方変わったのはローマの方だ。サウンドが豹変した。一瞬の出来事だったが、4000rpmから限界の7200rpmまで“吠える”では言い尽くせないほど息継ぎなしに吠える、吠える。単音ではなく和音みたいな何本もの太い低音の重なりが、音階というよりボリュームとテンポを変えながら、コクピットの中に竜巻のように渦巻いた。その変わりぶりには驚いたけれど、それは何度も出会ってみたい驚きで、太く伸びる加速感も同様だった。ローマは素晴らしい躯を持っていた。 ちなみ公式最高速度は320km/h以上、0-100km/h加速は3.4秒という強烈な速さを誇る。 フェラーリ・ローマはエレガントな着衣を脱ぎ捨てた。イブニングドレスのジッパーを下ろしたのはルイージ・レッテラ。心優しいテストドライバー。男のなかの男である。
文・松本葉