『はたらく細胞』細胞VSバイ菌の対立構造 単純な“勧善懲悪”にとどまらない物語の深み
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替わりでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、ふだん野菜をほとんど摂取せず炭水化物と塩分だけで生きている(体内細胞の健康状態が怪しい)徳田が『はたらく細胞』をプッシュします。 【写真】永野芽郁「佐藤健(白血球)さん、もっといいデザインなかったんですか…?」
『はたらく細胞』
『はたらく細胞』のビジュアルイメージを思い浮かべると、何よりもまず想起されるのは「赤」と「白」の明瞭なコントラストである。すなわち(擬人化された)赤血球と白血球の2ショットだ。原作コミックス第1巻の表紙を見ればそれは明らかだろう。 この対比構図は、実写映画版のキービジュアルにも踏襲されている。永野芽郁演じる赤血球と、佐藤健演じる白血球による対比である。さらに言えば、このビジュアルにおいては永野が右腕を、佐藤が左腕を折り曲げ、あるいは永野が右半身を、佐藤が左半身を前方に向けているという点で、ポーズの取り方においても対比構造が生まれているだろう。 このような「赤血球と白血球の対立構造」は、脚本上でも重要な意味を持つ。「体内の酸素運搬」を担う赤血球と、バイ菌などの「外敵駆除」を担う白血球との対比によってドラマが進行するからだ。 言い換えると戦時における「後方支援(=兵站)/前線」の対立が「赤血球/白血球」の対比に重ね合わされている。そして「前線」に出て敵を排除するという目に見える成果を挙げられず、酸素運搬という一見誰にでもできそうな「兵站」部門にしか関われないでいる自分自身を、赤血球は過小評価し思い悩むのだ。白血球はそんな赤血球の仕事を「必要不可欠」な仕事だとして肯定してくれるが、赤血球はなかなか自分のことを受け入れられないでいる。そういった葛藤を克服し、やがて自身の仕事の重要性に気づいていくかたちで成熟を果たす、1人(1つ?)の赤血球の成長譚としても本作は読み取れる。 いずれにしても、このような対立構造が頻出することは、『はたらく細胞』を読み解くうえで重要な示唆を与えてくれる。本作においては何よりも「体内細胞」と「バイ菌」との対立が物語の根幹を成すからだ。「正義」と「悪」の判断基準が崩壊した現代における数少ない「絶対悪」として、この作品には「バイ菌」が登場する。「人体に実害を与える」という身も蓋もない事実がバイ菌を悪として成立させ、「はたらく細胞」たちによる勧善懲悪物語を生み出しているのだ。 以下、ネタバレを含みます。