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書評家が選ぶ、外出自粛の今だからこそ読みたい5つの作品

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SmartFLASH

 新型コロナウイルス拡大を受け、東京都など7都府県を対象に、4月7日に発令された緊急事態宣言。国民に対し、より一層の外出自粛が呼びかけられた。在宅勤務に切り替わった人、授業が休みになり時間を持て余す大学生……。自宅で過ごす日も多くなった今だからこそ、読むべき本を、書評家・印南敦史さんに紹介してもらった。  印南さんは、この時期に読書すべき本として、ゆったりとした精神状態で読める本をあげた。 「新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、カミュの『ペスト』、石弘之の『感染症の世界史』などが読まれているようです。ですが、この時期にそういった書籍を読むのは精神的につらいのではないでしょうか? そんな観点から、難しいことを考えず、ゆったりと気軽に読める、5冊の本をご紹介します」 ■武田百合子『富士日記』(中公文庫)  夫で作家の武田泰淳、妻である自分、そして娘と富士山麓の別荘で13年間過ごした日々をつづった、文字どおりの日記。その日に会った人や訪れた人、起こったこと、買ったもの、食事の献立などがそのまま記されている。なのに惹きつけられてしまうのは、リズム感に満ちた文体と、そこから垣間見えるカラッとした性格ゆえ。  上中下3巻あり、それぞれ分厚いが、スイスイ読めて、読後は温かい気持ちになれる。個人的には、作中の食事描写でよく登場する『とりスープ』がすごく気になる。 ■末井昭『自殺』(朝日出版社)  著者は、子供の頃、自身の母親が彼氏とダイナマイトで自殺したという、衝撃的なバックグラウンドを持つ。  上京後、キャバレーや風俗店の看板描きを経て「エロ本」の編集者として活躍。エロ雑誌やパチンコ雑誌を次々と成功させて名物編集者となるも、浮気や、ギャンブル、不動産投資、先物取引により億単位の借金をつくるなど、破天荒な人生を送ってきた。  それでも、決して慌てず、まさにひょうひょうと生きてきたさまが、文章の端々から伝わってくる。読んでいると、「まぁ、なにがあっても生きてはいけるだろうな」と思わせてくれる力がもらえる。 ■源氏鶏太『家庭の事情』(ちくま文庫)  著者は、高度成長期に「サラリーマン小説」の旗手として一世を風靡した小説家。  1951年、『英語屋さん』で直木賞を受賞し、数多くの作品がドラマ化、映画化されてきた。特に、映画化された作品だけでも80本以上にのぼる。  大衆小説であるがゆえに文学的な評価は決して高くなく、そのため大半の作品が絶版となったが、近年、ちくま文庫から少しずつ再販されてきている。  本作は5人姉妹とその父親からなる、家族のドタバタ劇を描いている。情景描写が懐かしくもある作品。 ■メイソン・カリー 著、金原瑞人、石田文子 訳『天才たちの日課』(フィルムアート社)  作曲家モーツァルトやスティーヴ・ライヒ、作家アーネスト・ヘミングウェイや村上春樹、画家アンディ・ウォーホルなど、多種多彩な人物が登場する。 「彼らの日常のごく平凡な事柄___何時に寝て何時に食事し、いつ仕事をしていつ頭を悩ませていたか___を書くことにより、その性格や生涯について新たな視点を提供し、習慣の奴隷としての姿を、小さなおもしろい絵に描くのが目的」と著者が言うように、“天才”と呼ばれる161人が、どのような「日常」を送っているかを紹介している。余計な主観が入っていないからこそ新鮮で、好きな人物から読む楽しさもある。  昨年、続編の『天才たちの日課 女性編 自由な彼女たちの必ずしも自由でない日常』(同)も刊行された。 ■奥間埜乃『さよなら、ほう、アウルわたしの水』(書肆山田)  タイトルの美しさに強く惹かれた本書。研ぎ澄まされた言葉の使い方、独特の「、」の使いが生み出すリズム感など、ひとつひとつがとても新鮮で、読み終えたとき「この本は大切にしよう」と思えた。  詩については「難しい」というイメージ持つ人もいるだろうが、少なくとも僕は、理屈ではないと思う。なにかを“感じる”ことができれば、それこそが価値だということ。正解はないので、わからなくても、感じられればいいのでは。 いんなみあつし 作家、書評家。1962年、東京都出身。アンビエンス社代表取締役。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)など。 *文章を書く際の秘訣や、書評家とはどんな仕事かを記した『書評の仕事』(ワニブックス)が発売中 取材・文/亀井文輝

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