これが世界のポルシェの聖地だ!! ヴァイザッハのポルシェ研究開発センターのテスト・コースを初めて走った!
エクスペリエンスセンター東京が日本のポルシェの聖地なら、ヴァイザッハは世界のポルシェの聖地だ!!
ドイツ・シュトゥットガルトにあるポルシェ本社から西に15kmほど離れた小さな町ヴァイザッハ。そこにポルシェがつくるすべての車両の研究開発を行う巨大施設およびテスト・コースがある。ーー千葉県木更津市にあるポルシェ・エクスペリエンスセンター東京が日本のポルシェの聖地なら、ヴァイザッハは世界のポルシェの聖地だ。雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブから、2013年に行われた911の50周年記念イベントで、編集長のムラカミがヴァイザッハのテスト・コースを自らドライブしたときのリポートをお送りする。 【写真7枚】これがポルシェが生まれる場所! 歴代911でヴァイザッハのテストコースを試乗の詳細画像はコチラ ◆ポルシェ車のゆりかご「ヴァイザッハ」 この10年あまりの間に、何度も取材でヴァイザッハの研究開発センターを訪ねてきた。そして、ほとんどその度に、その時々の最新モデルをテスト・コースで体験させてもらった。ただし、居場所はいつも助手席である。ポルシェのテスト・ドライバー(といっても、開発エンジニアが兼ねている場合が多いのだが)が運転するテスト・カーの助手席に乗せてもらって、一周3km弱のコースを全開走行する。この同乗走行を体験する度に、ポルシェのエンジニアたちの運転技量の高さに感心するとともに、ポルシェ車のゆりかごとも言うべきテスト・コースの過酷さに舌を巻く思いをしてきた。 とにかく、全体的に壁が近い。運転を少しでもミスしたら、すぐに大クラッシュ事故に直結しそうだ。しかも、激しいアップ・ダウンあり、滑りやすいコーナーあり、姿勢を乱しやすい高速コーナーありで、助手席にいても一瞬も気が抜けないくらい緊張する。しかし、シートにしがみつきながらも、叶うことなら、一度だけでも自分でステアリングを握って、このコースをポルシェで走ってみたいと思い続けてきたのである。 そして今回、なんともあっさりと夢が実現してしまったのだ。しかも、試乗車はポルシェ・ミュージアムが手塩をかけて動態保存している極上の歴代911。ポルシェ・フリークが聞いたら目を剥きそうな、貴重な経験をさせてもらったことになる。 ◆最新は最良という格言の真偽 試乗方法は、乗りたい911に乗り込んでテスト・ドライバーが運転する991の後ろに付き、カルガモ走行で隊列を組んで4周ほど走る形式だった。どれでもお好きなのをどうぞ、と言われても、さすがに初期のナローなど稀少モデルは希望者が多くて順番待ちが必要になる。私は比較的新しいモデルにできるだけ数多く乗る作戦に出ることにした。 最初に乗ったのは964カレラ4。困ったことに、これで先導車に付いていくのは、至難の技だった。ハッキリ言って遅いのだ。しかも、ペダルは操作しにくいし、シフト・フィールは独特だし、ハンドリングはトリッキーだしで、どうなることかとヒヤヒヤしながら運転していた。 それが、次に乗った993ターボとなると、やや運転しやすくなり、速さも十分に先導車に付いて行けるようになった。ただし、直線でアクセレレーターを全開にした時のドッカン・ターボに助けられての話で、コーナーでは恐くてとても踏めない。 このあたりでコースにも慣れてきて、次に乗った997カレラ4カブリオレでは、ほとんど先導車をフォローしながら走れるようになってきた。滑りやすいコーナーでも、リアをわずかにスライドさせながら向きを変えるのが楽しい。それでも1カ所、時速120km以上で曲がる高速コーナーでは、先導車に付いていこうとすると一瞬グラッと縒れるような感覚があり、冷や汗が出た。 こうなると、どうしたって先導車と同じ991も、このコースで試してみたくなってくる。991カレラSカブリオレに乗って驚いた。さっき乗った997でさえ遥か昔のモデルと思えるくらい、とんでもなく速くかつ安定しているのだ。高速コーナーでも一瞬舵を入れて戻すとピタッと姿勢が決まり、気持ちいいことこの上ない。先導車をぴったりとマークして走り終えたら、降りてきたテスト・ドライバーがこちらに向けてサム・アップしてくれた。これで私の911観は完全に定まった。少なくとも、この911のゆりかごで乗り比べた限りでは、最新は最良という格言は間違いのない真実だ。 ◆50人がいれば50台の最良がある しかし、911が一筋縄ではいかないのは、これが必ずしもサーキットを走るためにのみつくられたものではないからだ。むしろ、ロードカーとしてつくられたからこそ、2+2というレイアウトにこだわったともいえる。絶対的な速さとは違うエモーショナルな速さや気持ちよさも、ロードカーとしての911にとっては重要な持ち味なのだ。そして50年の間、年を重ねるごとに不断の進化を続けてきた911は、常にその時代の最良のクルマをつくり続けてきた。ということは、常に時代を反映した濃いキャラクターを持つクルマを送り出してきたということでもある。それを考えると、50人のポルシェ好きがいれば、50台の最良の911が出てきても不思議ではないのだ。 ヴァイザッハからシュトゥットガルトへの帰り道、今度は一般道でタルガ・ボディの964カレラ2に乗り、先ほど乗ったカレラ4の重厚さとはまるで違う感触を持つことに驚き、この軽快感と当たりの柔らかさもすこぶる魅力的だなと感心しながら、そんなことを考え続けていた。 文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=ポルシェAG ※本記事では、911のモデル名を911、930、964、993、996、997、991のコード・ネームで表記しました。1974年に登場したいわゆるビッグ・バンパー・モデルについては、便宜上、すべて930としています。 (ENGINE2013年6月号)
ENGINE編集部