再生医療からアンチエイジングにも役立つ遺伝子の「付箋」とは!? vol.1
再生医療からアンチエイジングにも役立つ遺伝子の「付箋」とは!? vol.1 大鐘 潤(明治大学 農学部 准教授) 皆さんは「エピジェネティクス」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。遺伝子の発現に関わる仕組みのことですが、この研究が、最近、話題のiPS細胞や再生医療にも関わることで注目され始めています。その基礎研究が本学でも進められています。 ◇遺伝子とは細胞がつくるたんぱく質の設計図 エピジェネティクスとは、一般には聞き慣れない言葉かもしれませんが、遺伝子が発現する仕組みの一つであり、私の研究室では、その基礎研究を行っています。 では、遺伝子とはなにか。一般には、親から子に伝えられる遺伝形質の因子という意味で使われることが多いのですが、そもそもは、細胞の核に納められているDNAに書き込まれた、たんぱく質の設計図のことを指します。 DNAはA、G、C、Tという4種類の塩基のいずれかをもつ物質から構成されていますが、その4種類の塩基の並び方の組み合わせによって、つくられるたんぱく質が違ってきます。 人の場合、その組み合わせは約2万種類あります。つまり、2万個の遺伝子があり、2万種類のたんぱく質がつくられているというわけです。 人を含めて生物ではたんぱく質の働きがもっとも重要です。そのたんぱく質をつくっているのが細胞です。 人の場合、35~37兆個の細胞がありますが、種類としては200種くらいに分けられます。その違いは、それぞれの細胞がつくるたんぱく質が違うということです。 例えば、糖質の代謝に重要なインスリンとなるたんぱく質をつくっているのは、すい臓のベータ細胞です。体内で最も多いたんぱく質であるコラーゲンをつくっているのは表皮細胞などです。しかし、表皮細胞がインスリンをつくることはありません。 というと、表皮細胞のDNAには、2万個の遺伝子のうちの、コラーゲンのたんぱく質をつくる遺伝子があり、インスリンのたんぱく質をつくる遺伝子はもっていないように思われますが、実は、違います。 37兆個すべての細胞のDNAには、等しく2万個の遺伝子が書き込まれているのです。つまり、表皮細胞もインスリンのたんぱく質をつくる遺伝子をもっているわけです。では、なぜ、表皮細胞はインスリンのたんぱく質をつくらないのか。 それは、表皮細胞となる細胞では、コラーゲンのたんぱく質をつくる遺伝子が発現し、インスリンのたんぱく質をつくる遺伝子は発現しないような仕掛けがされているからです。 すなわち、その細胞が使うべき遺伝子と、使ってはいけない遺伝子それぞれに、オン、オフの、言わば付箋が付いているのです。この付箋の付けられ方によって、細胞は200種類に分類されるというわけです。 人の場合、ひとつの細胞あたり、数千種類の遺伝子を使っていると言われます。つまり、何種類かの細胞で使っている遺伝子もあるし、特定の1種の細胞だけでしか使われない遺伝子もあります。 この遺伝子についた付箋による発現の仕組みを、エピジェネティクスと言います。 ※取材日:2020年2月 次回:遺伝子発現を制御する付箋がある(9月28日12時公開予定)
大鐘 潤(明治大学 農学部 准教授)