【漫画】大学で漫画を学び、商業誌デビュー。新人漫画家・しなぎれが描く異世界ファンタジーがおもしろい!
かわいい絵柄と独特の世界観が注目を集めている漫画家・しなぎれさん(@sinanohaka)。Twitterでイラストや漫画を投稿しているほか、『ウルトラジャンプ』などの大手商業誌でも次々に作品を発表している。 【漫画3編】未曾有のウイルスが蔓延る世界で、ある理由から怯える少年。彼はヒーローになれるのか? 実はしなぎれさんは、京都芸術大学のマンガ学科で学ぶ現役の芸大生。今回はしなぎれさんの作品を紹介すると共に、大学で漫画を学ぼうと思ったきっかけや創作活動について聞いた。 ■キャラ作りの原点は友達との「ごっこ遊び」 ――大学在学中に商業誌デビューされたとお聞きしています。在学中に描いてこられた作品について教えてください。 「大学に入って初めての作品は『ゾンビと暮らす』というタイトルで、黒潮マンガ大賞で賞をいただくことができました。今見返すと恥ずかしいですが(笑)。『オワリのはじまり』という作品でウルトラジャンプの佳作をいただき、2020年にデビューしています。1番新しい作品は『宇宙留学生モル』で、2021年12月発売の『ヤングジャンプヒロイン』に掲載されています」 ――漫画を描き始めたのはいつからですか? 「1番古い記憶は幼稚園の時ですね。3歳上の兄が漫画を描いていて、それを真似していました。将棋盤みたいな四角いマス目を描いて、その中に絵を描くんです。4、5歳くらいだったので字はまだ書けなくて、絵だけだったと思います」 ――ずいぶん小さい頃から描いておられたのですね! 「なんとなく絵を埋めていただけだったのが、続けていくうちに1マス目にタイトルが入って、フキダシが入って、キャラクターが増えて…ゆるやかに漫画になっていきましたね。小学3年生くらいまで、そんなふうに描いていました」 ――キャラクターやストーリーも自分で考えていたんですか? 「はい、全部オリジナルでした。小さい頃って、友達と”ごっこ遊び”をしますよね。その時に演じるキャラクターが大好きで、『もっと動いているところを見たい』と思って描いていたんです」 ――「ごっこ遊び」が原点なんですね! 「塀の上で、指をこうやって…(ピースサインを逆さまにしてテーブルに指をくっつける動作)。2本指を足に見たてて歩かせたりしながら、名前をつけて遊んでいるうちにキャラクターができて、それを後で漫画にする感じです」 ――何気ない遊びが漫画になるとは。 「でも途中で恥ずかしくなっちゃって、ごっこ遊びと共に漫画を描くのは一旦卒業したんです。小学校でたくさん描いて、中学で中断して、高校でまた再開しました」 ――高校で漫画を再開したのは、何かきっかけがあったのですか? 「美術コースがある高校に通っていたんですが、同じクラスの漫画が好きな友達から『一緒に賞に応募しない?』と誘われたのがきっかけです。1人1本ずつ描いて応募したら、たまたま小さな賞をいただくことができて。評価してもらえたのがうれしかったですし、久しぶりに漫画を描いたのがすごく楽しくて、高校卒業後も学び続けられたらいいなと思いました。専門学校も考えましたが、担任の先生に勧めもあって、京都芸術大学のマンガ学科に進学しました」 ■大学入学時は会社員志望。プロになりたいと思ったきっかけ ――大学で漫画を学ぼうと思ったのは、プロの漫画家を目指すためでしょうか? 「いえ、入学当初は普通に就職するつもりでした。大学では年に2回、出版社の方に作品を見てもらう”出張編集部”というイベントがあるのですが、そこで編集者の方に『この作品をうちに出してくれたらデビューできますよ』と声をかけていただいたんです。そう言ってもらえるなら、本格的に漫画家を目指してみたいなと」 ――大学ではどんなことを学んでいるのですか? 「”考える術”を教えてもらいましたね。入学前は何も考えず好きなように描いていたんですけど、実際は漫画を描き始める前にやるべきことがいっぱいあるんです。プロット(筋書・構想)やネーム(コマ割りやキャラクターの配置、セリフなどを大まかに描いたもの)の存在も知らなかったので、本当にイチから教えてもらいました。今はしっかり構想を練ってから描いていますよ」 ――しなぎれさんの作品は絵柄がとてもかわいらしくて、SNSにもたくさんのファンがいらっしゃいますね。今の絵柄になるきかっけや、影響を受けた作品はあるのでしょうか? 「よく聞かれるんですが、自分では全然わからないんです…。描いているうちに自然と今の形になりましたね。兄の影響もあって、漫画は子供の頃からいろいろ読んでいました。友人からは『星のカービィ』にちょっと似てると言われたことがあります。そういえば、大好きだし昔模写していたなって(笑)。ちなみに今1番好きな作品は『ねじまきカギュー』(ヤングジャンプコミックス)です」 ――漫画を描くうえでこだわっていることは何でしょうか? 「唯一決めているのは、”人間と人間じゃないモノのお話を描く”ということだけです。ヴァンパイアや魔法使い、宇宙人といった、人以外と人が交流する話がずっと好きで。そこを軸にストーリーを考えると、どん底にいる主人公が成長していく物語になっていくんです」 ――作品づくりで苦労していることがあれば教えてください。 「実はネーム作りがもう本当に苦手で…(笑)。1年生の時に出張編集部でネームを見せたら、開口一番『壊滅的だね』と言われたほどです。『言ってることがめちゃくちゃだ』とか『キャラクターの背景がわかりにくくて感情移入がしづらい』など、いろんなアドバイスをいただいて直し続けましたね。今はだんだんと直しは減っていますが、まだまだです」 ――そうなんですね!昨年Twitterで公開されて大きな反響があった『魔法の使えない女の子と臆病な男の子の話』では、「ストーリーもキャラクターも全部好み」というリプライがたくさん寄せられていたのですが…。 「ありがたいことに、『この話が好き』『キャラクターがかわいい』と感想を寄せてくださる方はいらっしゃいますね。アラはあっても、わかりやすい話にまとめられたのが良かったのかもしれません。励みになりますし、とてもうれしいです!」 ――近況や次回作の予定を教えてください。 「今は連載の準備をしています。1話分のネームを描いて、編集者からOKをもらえるまで直し続けています。キャラクターの性格や世界観の設定はできていて、あとはそれぞれの立ち位置と何が起きるかを考え続けています。めちゃくちゃ大変です(笑)」 ――次はいよいよ連載なのですね!最後に、今後の展望をお聞かせいただけますか? 「言うのは恥ずかしいんですけど、いずれは自分の作品をアニメにしたいです。作品の中のキャラクターたちがすごく好きなので、ぜひ動くところを見たいですね」 ――なるほど、やっぱり動かしたいんですね(笑)。連載もアニメ化も楽しみにしています! 大学で漫画を学び、在学中にデビュー。そう聞くと夢のような話のように思えるが、しなぎれさんの作品の裏側には、幼い頃からの漫画愛と自分の作品と向き合い続ける努力があった。今後は一体どんな作品が世に放たれるのか、楽しみで仕方ない。 取材・文=油井やすこ 撮影=松井ヒロシ