社説:危険運転の処罰 法見直しへ市民感覚を
無謀運転を抑止する法整備がさらに求められる。 大分市の一般道で2021年、時速約194キロで乗用車を運転し右折車と衝突し、相手の男性を死亡させたとして自動車運転処罰法違反(危険運転致死)の罪に問われた被告の男に、大分地裁が懲役8年の有罪判決を言い渡した。 判決は、法定速度60キロの3倍以上の猛スピードでの運転を「常軌を逸した進行制御困難な高速度」だったと認定した。 その上で、「加速の高まりを楽しむ」という動機を「身勝手で自己中心的」と厳しく非難し、過失罪より重い危険運転致死罪の成立を認めた。社会的な常識や市民感覚にかなうといえよう。 悪質な運転を「故意」として「過失(不注意)」より厳しく臨む危険運転致死罪については、2001年に新設されたが、適用の線引きがあいまいで立証のハードルが高いという指摘が度々なされてきた。 現在、同罪に問うには「進行の制御が困難な高速度」や「アルコールの影響で正常な運転が困難」だったことなどの立証が必要とされる。 そのため、実態としては検察が過失致死傷罪などで起訴することが少なくない。 だが、飲酒を過失とするのは、事故遺族から批判が強く、一般的な感覚ともかけ離れていると言わざるをえない。 同罪についてはおととい、法務省の検討会が、速度違反と飲酒に関する数値基準の設定を促す報告書をまとめた。 速度については「最高速度の1・5倍や2倍」との委員の意見を紹介し、飲酒でも呼気中のアルコール濃度などの数値基準を定め、超えた場合に一律で同罪を適用することとした。 具体的な数値は、法務大臣の諮問機関である法制審議会に委ねられる。 ただ、数値だけが適用の基準になれば、「基準以下だから危険運転にはあたらない」という運用につながりかねない。留意した議論が必要だろう。 事故原因に飲酒がどの程度影響したかを総合的に判断すれば、アルコール濃度が基準値以下でも危険運転と見なす可能性はあり得るのでないか。 厳罰化だけで事故をなくすことは難しい。危険な運転を防ぐ車両の開発やインフラ面の改良に加え、ドライバー一人ひとりの安全意識を高める施策を強化したい。