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学校って何? N高が問う(日本の高校生はどこへ)

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NIKKEI STYLE

 高校生について非常に気になる調査結果がある。2019年11月に日本財団が発表した「18歳意識調査」。米英や中韓など9カ国の17~19歳に、社会や国に対する意識を聞いたところ、日本は「将来の夢を持っている」「自分で国や社会を変えられると思う」など多くの項目の数字が最下位だった。「日本の高校生ってそんなに夢が持てないの」「学校のかたちが時代に合わなくなっているのかも」。そんな疑問から、学校のあり方や周囲の環境を、彼らがどう受け止め、対応しているのか取材した。日本の高校生が向かう先を考える。 ◇   ◇   ◇  登校して授業を聞く。そんな学校の基本スタイルを揺さぶり始めている高校がある。N高等学校。角川ドワンゴ学園(沖縄県うるま市)が16年に設立した通信制高校で、N高は「ネット高校」と説明する。卒業に必要な授業はネット配信で受けられる。国内外どこでも受講できるため、フィギュアスケートの紀平梨花選手らが在籍することでも知られる。右肩上がりの学生数は現在、1万2千人だ。  高校の課程に入らない「課外授業」もある。プログラミングやウェブデザイン、大学受験対策などもネット配信の動画で学べる。N高生ならすべて無料。「投資部」などユニークな部活動もある。全国各地のキャンパスで学びの機会を広げる「通学コース」も設置。学生寮も置いている。  20年春は東京大学合格者が出るなど進学実績も伸びているが、在学経験者はN高のもっと別の顔を語る。他の学校に通えなかった、あるいは他の学校ではできないことがあった生徒が「ここならいられると思った」「自分のやりたいことができた」と話すのだ。 ■中学までの優等生が不登校に  慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の環境情報学部に通う鈴木颯人(すずき・はやと)さんは、高校2年の4月からN高に通った。きっかけは不登校だ。  中学までの鈴木さんは成績もよく、クラスの中心にいるような生徒だったという。卓球では県大会の団体戦で準優勝も経験していた。ところが、県でもトップクラスの公立高校に入って状況が変わった。周囲は自分と同じような成績の生徒ばかり。競争に勝たなければと思ったが、体が動かず、数カ月で学校に行かなくなった。「生きる目標も見失って、自分の部屋でカーテンを閉めてぼーっとしていた。正直なところ当時の記憶がほとんどありません」  環境を変えるべきだと、両親はすぐに動いた。高2からN高の通学コースに転入。「ひととのコミュニケーションの機会を失ってほしくないと両親が考え、通学コースをすすめられた」という。  N高では「自分がすごくふつうに思えた」。オタクっぽい人も、テンションが高い人もいる。「自分も頑張ればできる」という気持ちを自然に取り戻せた。それまで考えられなかった大学進学も、プログラミングが得意な友人やチューター、SFCの大学生との出会いを通じて視野に。合格を果たし、今は学校に通いながらネットサービスのスタートアップでインターンとして働いている。  「高校生だけどバックパッカーしてます」というのはN高3年の石井翔(いしい・しょう)さん。中学時代の不登校がきっかけでN高に入学した。朝起きるのがつらいといった症状がある起立性調節障害で、決まった時間に登校するのが難しくなった。人間関係でもめたわけではなかったが、徐々に足が遠のいた。「先生や同級生に会いたくなくて、外の世界をシャットアウトしていた」  N高ではネットコースに入学。起床がつらい時も助かることが選択の理由だったが、石井さんを変えたのは、実際に生徒が集まるリアルな場だったという。リズミカルに歌う「ラップ」やコミュニケーションのワークショップに参加。そこで、バックパック旅行が趣味のN高生に出会った。「高校生でバックパッカー?」。海外に行ったこともなかった石井さんは刺激を受け、気づけばその晩にベトナム行きの航空券を買っていた。費用はボウリング場のアルバイト代をあてた。  19年4月、ハノイを4日間、1人で旅した。「トラブルもあったけど、露天商の人と仲良くなるなど出会いもあった」。旅の魅力にとりつかれ、9月にはタイに友人と2人で出かけた。「オンラインのカリキュラムは、旅行とかバイトの予定を考えて、先取りで進めている」という。 ■「道は1つじゃないよ」  旅行を通じて英語をもっと勉強したいと思うようになった。プログラミングのスキルも磨き、将来はフリーランスで働きながら海外で暮らすことも思い描く。N高の文化祭実行委員も経験し、大学進学も考えている(20年度の文化祭は新型コロナウイルスの感染拡大を受け中止)。「小学校の同級生に、行動力がすごい、変わったなって言われた」と笑う。中学時代の自分に声をかけるなら「道は1つじゃないよと言いたい。敷かれたレールを進むのが人生ではないって」。  東京都内にある私立の小中高一貫校から高2の3学期にN高に転入した佐々木雅斗(ささき・まさと)さん。ネット上では「あっぷるささき」のネームで情報発信している。現在は慶大環境情報学部に在学中だ。  父の影響でアップルのコンピューターが大好きだった。米シリコンバレーにあるアップル本社の見学ツアーに参加したのが高2のとき。現地のエンジニアたちの熱量に圧倒された。同じころ、各界の専門家らが独創的なアイデアや卓越した技術をもつ17歳以下を支援する「未踏ジュニア」プログラムの対象にも選ばれた。  学校になじんでいなかったわけではない。ディベート部では全国大会で活躍し、未踏ジュニアになるための研究にも取り組んだ。忙しすぎて体調を崩し、帯状疱疹(ほうしん)が出た。それでも「学校ではすごいねと言われるばかりで、それ以上は成長できない気がした」。  N高に転入して「時間に余裕があるほうが人は想像力がわくんだと知りました」。登校は週3日。プログラミングを学びながら、ディベート同好会でも活躍した。動画メディアのベンチャーのインターンとして働くことも経験。米国滞在中にあった卒業式には、ロボットを通して参加した。N高は「多様性の極み」と思う。「普通の学校は地域、学力などのフィルターがかかるから、似たような子が集まりやすい。でも、N高はそのフィルターがぶっこわれている」  教室での授業をしないことへのアレルギー反応は、教育界に根強い。「商売上手」とやゆする向きもある。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた全国的な臨時休校は、「ネット高校」の存在に目を向けざるをえない空気を確実に生んでいる。  創立メンバーの一人で現在は校長を務める奥平博一さんは言う。「学校は建物ではないと思うんです。大切なのは、その子のことをわかって受け入れる大人や友達がいるかどうか。1人でも自分をわかってくれる人がいれば、子どもは変わる」 (藤原仁美)

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