ハリルが抱える本田、長友、香川外しの苦悩
試合勘の欠如がよく指摘されるが、もっと深刻なのは試合に必要な体力が失われることだ。だからこそ、ハリルホジッチ監督も試合に出ているか否かを重視する。 「試合に出ていない彼らはプラスアルファの練習をして、試合の負荷を補わなければいけない状況にある。私に対しては『状態はいいです』と意欲を見せてくれるが、試合の代わりになる練習は存在しない。本来の私の基準では、本田、長友、香川といった選手を外さざるをえない」 しかし、もうひとつの難題が指揮官をさらに悩ませる。UAE戦の会場はドバイやアブダビではなく、アル・アインのハッザーア・ビン・ザーイド・スタジアムとなった。 収容人員は約2万5000と他の国内スタジアムより小規模だが、屋根付きのサッカー専用スタジアムで、大声援の塊があらゆる方向から降り注いでくる。昨シーズンのACL決勝もこのスタジアムで行われ、ハリルホジッチ監督もテレビ観戦している。 「相手選手にプレッシャーを感じさせるほどの、かなりすごい雰囲気になる。そうした部分を考えると、今回は経験値がどうしても必要になる。ただ、経験値の高い選手が試合に出ていないし、フィジカルの状態がトップにない。私の基準で行くと、チームの半分近くがいなくなってしまう」 1990年のイタリア大会以来となる2度目のW杯出場へ、UAEはおそらく国を挙げて応援してくるはずだ。白装束で埋め尽くされる、大人の男性がほとんどを占めるスタンドは異様な雰囲気をかもし出し、これまでも日本人選手を委縮させてきた。 だからこそ、指揮官は経験値を重視する。百戦錬磨のキャリアは強靭なメンタルの源になる。そして、折れない心をピッチ上で誰よりも強く、雄々しく具現化できるのがこれまでの本田だった。 「試合に出ていなくても彼らは準備をしているので、必要だと思う選手は呼びたい。ただ、呼んだからといって試合に出られるとも限らない。私の目で状態をチェックしたい」 ベンチ入りできるのは23人だが、今回は25人を招集する予定だ。おそらくは本田をはじめとする欧州組の状態を、ぎりぎりまで見極めたいのだろう。理想と現実の狭間で葛藤するハリルホジッチ監督の胸中が、現地での練習を経て試合当日に2人が外れる措置にも反映されている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)