エプソン初の大型買収に“沈黙”競合から戸惑う声、845億円で米ソフト会社買収、問われるシナジー
また、Fiery社は競合するプリンターメーカーに対しビジネスを行っているが、提案の流用が指摘されるなど不満の声も挙がる。これらの状況から、主力事業の成長は見込みづらいと推測される。 ■インクジェットでシナジー出せるか 既存ビジネスの伸びが見込めない中、Fiery社はインクジェットや産業用印刷を伸ばそうとしている。この方向性はエプソンと一致する。ただしFiery社は歴史的にトナーを使った印刷向けシステムに強みがあり、インクジェット向けではまだ日が浅い。
インクジェット向けのソフト開発では専門の有力プレイヤーが多く存在する中、インクジェット専門企業といえるエプソンがあえてFiery社を買収した理由については、エプソンの説明を待たなければわからない。 2023年にシリスキャピタルは、Fiery事業をEFI社から分離して独立会社化した。Fiery社のCEOはその際、「顧客を成功に導く中立的なパートナーとしての役割を、より一層果たせるようになった」とコメントしている。EFI社は印刷機も手がけているため、先のコメントは自社と顧客が競合しない体制が望ましい、と言っているように受け取れる。
しかしこの度、Fiery社は顧客のうちの1社であるエプソンに売却されることになった。Fiery社は社名・組織は既存の体制を維持するというが、顧客と競合する立場で、ソフト外販をどう伸ばしていくのか。また、既存の体制を維持したまま、エプソンはFiery社の資源や資産を思うように活用できるのだろうか。 業界内から驚きと疑問の声が挙がるFiery社の買収。エプソンはどのように成長戦略を描き、果実を手にするのか。
吉野 月華 :東洋経済 記者/山下 美沙 :東洋経済 記者