エプソン初の大型買収に“沈黙”競合から戸惑う声、845億円で米ソフト会社買収、問われるシナジー
エプソンが強みとする家庭用プリンターは、オフィス向けプリンターほどにはペーパーレス化の影響を受けていない。しかし、業界共通課題としてのペーパーレス化にはエプソンも危機感を持っており、市場の大きなオフィス向けで他社からシェアを奪う、市場拡大が見込める産業用印刷を強化するなどの対策を採っている。 エプソンはインクジェット領域でハードウェアの商品力に強みがある。近年は基幹部品であるインクジェットヘッドの外販を急速に伸ばしている。
一方でソフトウェアの開発は弱点だった。エプソン製品の中には、一部Fiery社からシステムを購入しているものもある。エプソンにとってFiery社の買収は、システムの弱みを補完する意味がある。今後は「Fiery社の既存ビジネスであるシステム外販は続けながら、エプソンとしては産業領域を中心に自社の印刷機にシステムを組み込んでいく」(エプソン広報)と意気込む。 Fiery社はもともと、アメリカのナスダック市場に上場していたEFI社の一事業だった。EFI社は2019年に米投資ファンドのシリスキャピタルに買収され、上場廃止となった。そのため2018年分までは開示資料から業績を確認できる。業績トレンドをたどると、2015年をピークにFiery社の売上高が減少基調に転じている。
2015年までは、システムの性能が評価されて売上高は年率10%ほどの成長を遂げていた。ソフトウェアビジネスのため採算もよい。しかし2015年を境に、一部の顧客がシステムを自力で開発するようになったことなどが業績に響き始める。 2015年に3億ドル近くあった売上高は、2018年には2.4億ドルまで減少した。エプソンのリリースによれば直近の2023年の売上高は約2億ドルで、漸減傾向にある。 システムはプリンターを動かす上で非常に重要なため、顧客側も自社での開発に力を入れ、その質を高めている。Fiery社の主力製品は特殊な需要に応えるものなので置き換えは考えづらいが、市場の伸びは見込めない。さらに顧客による自前システムの充実が進めば、新規の案件獲得が難しくなる。