エプソン初の大型買収に“沈黙”競合から戸惑う声、845億円で米ソフト会社買収、問われるシナジー
インクジェットプリンター首位のセイコーエプソンは9月19日、約845億円を投じアメリカのプリンター向けソフトウェアのメーカー、Fiery(ファイアリー)社を買収すると発表した。 【写真】家庭用プリンターにとどまらず、エプソンが強化しているオフィスや学校向けの複合機 Fiery社は、大容量の画像データを高速で処理するソフトウェアに強みがある企業だ。キヤノン、リコーといった大手プリンターメーカーがFiery社の顧客としてシステムを購入している。処理速度を必要とする特殊な印刷需要向けでは、Fiery社のシステムが一般的に採用されている。
限られた市場ではあるが、プリンター業界の一部の会社から見れば「取引先が競合に買収された」構図となる。 ■初の大型買収 今回はエプソンにとって、過去最大規模の買収となる。同業のキヤノン、富士フイルム、リコー、ブラザー工業は、医療やデジタル、工作機械などで大規模買収も駆使して事業構造を変化させてきた。彼らとは対照的にエプソンによる買収は、合弁会社の子会社化や業務提携先の買収、工場の取得など小規模なものが中心だった。
エプソンの業績をみると、円安を追い風に近年の売上高は堅調に見える。しかし長い目で見ると頭打ちだ。ペーパーレス化の進展や年賀状文化の衰退で、主力の家庭用プリンター需要は縮小。インクカートリッジよりも純正インクの使用率向上が期待でき、単価も高い「大容量インク」モデルを普及させて採算向上に努めているが、営業利益率は緩やかな低下傾向にある。 やっと繰り出した大規模買収にもかかわらず、買収の狙いについてエプソンからの発信はほとんどない。プレスリリースで「エプソンの戦略的ビジョンとハードウェアのリーダーシップを補完し、世界中のデジタル印刷の成長を加速させる」と説明するのみだ。買収についての会見や説明会も開催されていない。
競合他社からは「既存ビジネスへの影響については心配していないが、エプソンの狙いがわからない」と困惑や驚きの声が挙がっている。 ■ハードは強いがソフトに弱点 エプソンの売上高の約7割は、印刷関連のプリンティング事業が占めている。その大部分は家庭やオフィス向けのインクジェットプリンターであり、残りが産業用印刷関連だ。プリンティング事業以外では、プロジェクターや産業用ロボット、産業用水晶、時計などを手がける。