〈M-1グランプリ〉なぜ審査員は「歌ネタ」に厳しいのか…元王者ノンスタ石田が解説「スベりやすい芸人の共通点」
漫才のコンテスト「M-1グランプリ」で評価されるネタとはどんなものか。2008年「M-1」チャンピオンであるNON STYLE石田さんは「同業者であるプロの芸人が評価するのは『やられた!』と思うネタ。だから笑いどころがわかりやすい歌ネタは高得点を獲得しづらい」という――。 【この記事の画像を見る】 ※本稿は、石田明『答え合わせ』(マガジンハウス新書)の一部を再編集したものです。 ■なぜM-1で「歌ネタ」は評価されにくいのか 漫才のネタに優劣はない。これは当然ですが、ことM-1という大会に限っていえば、たしかに評価されにくいネタはあります。 その筆頭は「歌ネタ」です。 理由はシンプルで、歌ネタは笑いのポイントを作りやすいからです。 誰もが知っている歌を取り上げて、それをちょっと変えたり、いじったりする。お客さんは元ネタを知っているわけだから、「ちょっとおかしいポイント」、つまり「どこで笑えばいいのか」がわかりやすい。 こんなふうに笑いのとり方がわかりやすいので、たとえ会場ではウケても、「今、一番、面白い漫才師」を決める大会で歌ネタに高得点をつけるのは、笑いのプロとして躊躇するところでしょう。 漫才がどんどん多様化するなかで、こういう見方も、今後は変わっていくかもしれません。ただ現状では、「M-1らしさ」の点で、あまり評価が高くないということやと思います。
■「桃太郎」のネタに芸人は脅威を感じない もちろんこれはM-1という評価基準の中の話であって、歌ネタそのものを否定するわけではありません。笑いどころがわかりやすい歌ネタは幅広い客層の人が楽しめるので、寄席では重宝されます。僕らも数は少ないですが、歌ネタはいくつか持っています。 誰もが元ネタを知っているものを使うという意味では「おとぎ話ネタ」も同じです。どちらも、そうとう変わったことをしないと、「(笑域が高い)面白さ」にはつながりません。 何事もそうですが、同業者に脅威を感じさせるくらいのものでないと、なかなか評価されないということです。 ちょっと意地悪な見方ですが、歌ネタもおとぎ話ネタも、漫才師にとっては「やられた!」感が少ないんです。だから、「あのネタおもろいなー」と気楽に褒めることができます。そのあたりが、賞レースの舞台では歌ネタやおとぎ話ネタが評価がされにくい理由かもしれません。 ■「やりやすいネタ」だと得点はつきにくい 何か1つ「得意な型」があって、しかもそれが劇場でウケていたりすると、つい、そればっかりやりたくなる。M-1でも、それで勝負したくなる。 大きな大会だからこそ、安心して「やりやすいネタ」を持っていきたいのはよくわかります。でもそれだと、やっぱり高い点数はつけられにくいんです。 わかりやすいところでいうと、男女コンビは男女コンビならではの型、双子コンビは双子ならではの型をとりがちですが、そっちに全振りすると「意外性」は減少します。つまり「お客さんの意表をついて笑わせる」量が減る。 1つのスタイルを確立している場合も同様です。 一例を挙げるとネイビーズアフロ。僕は2人の漫才が大好きですし、寄席でもウケていますが、M-1では今ひとつ結果が出ていません。 彼らは、すでに確立したスタイルばかりやってしまうという落とし穴にハマっているんやないかと思っています。ボケのみながわくんがイライラさせるようなシビアな考え方をする。もともとは、それが真新しくて面白かったんですけど、そういうネタばかり作っている印象があります。 個人的には、もう少し違う角度のネタを作って、そのなかに突然彼らのスタイルを織り交ぜるほうが、笑いの打点が上がるんやないかなと思っています。ネイビーズアフロが本当に面白いことができるコンビなのはたしかです。だからこそ思い切って全然違う形に挑戦したらいいのになと思います。