〈M-1グランプリ〉なぜ審査員は「歌ネタ」に厳しいのか…元王者ノンスタ石田が解説「スベりやすい芸人の共通点」
■全部のボケで全員にウケようとしないスタンスの新しさ 彼らはそういうボケを容赦なく差し込みつつ、基本的に「どうぞご自由に見逃してください」というスタンスでいるんです。そもそも全部のボケでみんなにウケることを狙っていない。一部の人にしか伝わらなさそうなボケでも、ツッコミの出井(隼之介)くんがほとんど説明せずサラッと突っ込むだけで次に行ってしまうこともよくあります。 それでも全体として爆笑をとっているところが本当にすごい。 「ボケの種類と数」を豊富にすることで、結果的に「見ている人みんながどこかで笑えるネタ」に仕上げ、笑いの量を稼いでいく。ボケの1つひとつはターゲットが絞られるんやけど、トータルでは万人ウケする、という戦略が見事にハマっているんです。 実はヤーレンズはただボケ数が多いだけではなく、まったく新しいスタイルでM-1に挑んできたわけです。 また、本来は大きな笑いが起こったらいったん笑いが静まるのを待って次の展開に行くのが基本です。でも、ヤーレンズは、笑いが起きているなかでもガンガン次のボケを入れていく。これも「見逃してもいいですよ」というスタンスだからやと思います。そうすることで、最後までトップスピードで駆け抜けることができるんです。 ■従来の漫才の定石なら、ボケ数は少ないほうがウケやすい ヤーレンズのようなスタイルもありますが、これまでの漫才の定石でいえば、ボケ数は少ないほうがウケやすくなります。振りに時間をかければかけるほど、複雑なコマンドを打つことができるからです。 どういうことかというと、お客さんが「こんなボケが来そう」と想像する時間を設けたうえで、その逆をやったり意表をついたりすることで、鋭く刺さるボケができるんです。 つまり、面白いことを言うまでに、ある程度、時間をかけたほうが笑いをとりやすい。この場合は展開がゆっくりになり、振りに時間をかけるぶん、ボケ数は少なくなる。こういう順序で、ボケ数は少ないほうがウケやすいという話になるわけです。 逆に、小ぶりなボケを数多く打つ場合は、とにかくスピードが命です。ボケがシンプルなだけに、お客さんに「こういうボケ言うんちゃうかな」と読まれてしまったら、笑いの量は格段に減ってしまいます。だから、お客さんに予測される前に、とにかくボケを乱射しながら一気に駆け抜けるしかありません。