〈M-1グランプリ〉なぜ審査員は「歌ネタ」に厳しいのか…元王者ノンスタ石田が解説「スベりやすい芸人の共通点」
■M-1優勝以来「太ももを叩く」ボケをほぼやめた理由 いくら好きなカレー屋さんでも、さすがに毎日は通いませんよね。毎日、食べに来てもらえるようにするには、「とびきりうまいカレーもある定食屋さん」にならなくちゃいけない。ネイビーズアフロは、とびきりうまいカレーを作れるんやけど、それ一本だけで勝負しようとしているようなものなんです。 すでに確立された型が1つあるわけだから、もう少しバラエティ豊かにして「いろいろなメニューがあるけど、いつでも、とびきりおいしいカレーを出せます」っていう定食屋さんになれたら一気に跳ねるんやないかと思います。 NON STYLEもそれまで自分たちの「型」だった「イキリ漫才」を封印することで、M-1で優勝できました。さらに、そこで披露した「太ももを叩く」という新しい型も、M-1後にはほぼやっていません。 長く漫才をやっていくには、1つの型に固執しすぎず、「新たなチャレンジ」をしていかなくてはいけない。そう思っているからです。 ■「見逃してもいいボケ」で4分間を駆け抜ける シビアな時間制限がある賞レースでは、「短い時間でどれだけボケ数を入れられるか」が大切だといわれます。最近、ぐいぐい認知度が上がっているコンビで、ボケの量が際立っているのは、2023年のM-1で準優勝したヤーレンズでしょう。 ヤーレンズは本当にボケ数が多い。最初から最後まで息をつかせぬほどのスピードで、次から次へと畳み掛けるようにボケが差し込まれます。しかも彼らがすごいのは、お客さんがボケを見逃すのをなんとも思っていないように見えるところです。ボケ数を多くすればするほど、お客さんが掛け合いのスピードについていけず、ボケを見逃してしまう危険性があります。 僕がM-1で「一度ボケて、さらに太ももを叩いて自分を戒める」という2重構造にしたのは、確実にお客さんにボケを受け止めてもらうための工夫でもありました。「太ももを叩くまでが1つの展開ですよ」とお客さんにわかってもらうことで、スピードを上げてもボケを見逃されないようにしたんです。 でも、ヤーレンズはNON STYLEでいうところの「ボケましたよ、太もも叩いて戒めますよ」みたいな「お客さんにきちんと届けるターン」を入れていない。 ボケの種類を見てもそう思います。ヤーレンズのボケは意外と世代や性別で「わかる/わからない」「笑える/笑えない」が分かれるものがけっこうあります。 たとえば、サラッとアントニオ猪木のボケを入れたりする。猪木のボケは若い人にはあまり伝わらないでしょう。