「支配ではなく利用。飼育技術を高めるのが使命」「見せて人間が楽しむ形態は間違っている」 動物園は必要か不必要か
一方で大渕氏は、岡田氏の“閉じ込める”といった表現に反論。「そもそも動物園で飼育して初めて、こういう飼い方だとストレスを感じるだろう、こういう飼い方だったらいいだろうと(生態などが)わかってきたわけなので、飼育を否定するような言い方はどうかなと思う。今動物園で一番言われているのが、行動のレパートリーだ。種ごとによって状況は違うが、野生の動物にはどういった行動のレパートリーがあって、それが動物園でいかほど再現されているのか。もちろん、常同行動などが出ているのは良くないと僕も思う。飼育“技術”なので、そうやってどんどん高めていくことも動物園の大きな使命だと思っている」との考えを示した。 しかし、岡田氏のそもそもの主張は「できれば全ての動物園を人間の支配下からはなくして欲しい」というところにある。大渕氏は「僕はずっと言っているが博物館だ。そして支配という言葉は、動物園に勤めていた立場としてすごく辛い。支配ではなく“利用”。同じではない。管理下に置いて、マネージメントしている。動物を扱う者として、その責任は絶対に負わなければいけない。猫を飼う時も外で飼うなんて絶対にありえないので、それを支配と呼ぶのであれば見解の相違かなと思う。そして、なぜ利用しているのか。博物館なので、いろんな人に見せて教育に活かし、次世代の研究者やその道に行く人を育てるという側面もある。何より、私たちも動物で、地球の一員だ。他の生き物と関わらずに、自然を利用せずには生きていけない。では、どのくらいの利用なら地球にダメージを与えないで一緒に持続可能に生きていけるのか。それは研究によってしか明らかにできず、その上で飼育は必要だということだ」と主張した。
では、動物園などで行われる触れ合いやショーなどは動物にとってストレスなのか。岡田氏は「特に触れ合いはやめていっていただきたいし、ショーも当然行うべきではないと思う。給餌タイムもあるが、今動物はあまりにもやることがないので、給餌が行動エンリッチメントに一部なっていたりもして、本来はやるべきではない。人獣共通感染症や感染症のリスクからしても行うべきではないと思う」と指摘する。 大渕氏は「人獣共通感染症に関しては、お互い消毒をするとかきちんと配慮をしている。扱うのは家畜と呼ばれる動物たちで、もちろんストレスにならない範囲で時間も管理してやっている」とした上で、ショーなどに関しては「各園が頑張って教育的な側面を強く出してきている。イルカのショーにしても、“イルカがこういう行動ができる”というのは学習によって得たところももちろんあるが、その能力は野生で何かに使われているはずだ。それをショーに転用して見せることによって、“イルカはこういう能力を持っている”“こういう動物だ”ということを知ってもらう方に転換しつつある」と訴えた。 また、娯楽要素も必要だとし、「動物園の使命は生物多様性で、『これは地球規模課題だから』というのは動物を好きな人も嫌いな人も言う。でも、好きか嫌いかは関係なくて、生き物が減っていったら地球の環境は維持できない。それを動物園に来て知ってもらうためには、入口は娯楽でもいいと思う。そこで何か学んで帰る、あるいは動物園はこれでいいのだろうかという問いでもいい。何か持って帰ってもらう仕組みが必要だと僕は思っている」とした。