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<消臭力ソングの秘密>ユニークだけじゃない「心に届ける、人に寄り添う」エステーのCM

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ザテレビジョン

西川貴教がハイトーンボイスを響かせるエステー「消臭力」のテレビCM。同社を代表する有名なCMであり、「しょーしゅーりきー♪」のフレーズは多くの視聴者の記憶に刻まれていることだろう。 【写真を見る】髙橋愛、田中れいな出演の「脱臭炭」最新CMは、ドローンによる一発撮り。2人の笑顔を切り抜く躍動感あふれる一作 毎回ユニークなシチュエーションで楽しませてくれるこのシリーズだが、最新バージョン「いま伝えたいこと」篇には、楽しさと同時に、「上を向こう」という今の世の中に向けたメッセージが込められている。 エステーのCM制作には全て同社のクリエイティブディレクター・鹿毛康司氏が立ち、企画から演出、曲作りまでのクリエイティブワークを自ら行っている。 「生活に寄り添ったCM。心に寄り添ったCMを届けたい」。今回のインタビューで印象的だった鹿毛氏の言葉だ。この想いは何に起因するのか。消臭力ソング誕生のきっかけ、CMに込めたメッセージ、異彩なエステーCM制作の秘密を聞いた。 ■ 東日本大震災で想いを強くした「寄り添う」気持ち ――鹿毛さんのマーケティング論である「寄り添う」ということ。これを考えるようになったきっかけから教えてください。 鹿毛:「寄り添う」は元々僕のモットーですが、その想いを強くしたのは2011年、東日本大震災のときです。あのとき、東北の皆さんは特にそうですが、「頑張ろう、頑張ろう」と、懸命に自分を奮い立たせようとしていたじゃないですか。覚えている方も多いと思いますが、「消臭力」のCM、最初は西川貴教さんではなく、ポルトガル人の少年、ミゲル・ゲレイロくんが出演していました。 ――覚えています。ミゲルくんがただただ美声を披露するCMに、「なんだよこれ」とツッコんでしまいました。 鹿毛:あれは震災後初めて流したエステーのCMで、最初はこういうCMを作っていいものか、ずいぶん悩みました。不謹慎だと言われるんじゃないかって、正直怖い部分もありました。でもね、Twitterを見ていたら「頑張ろう」という中に、「あのバカバカしいエステーのCMがまた見られるようになったらいいよね」って、そういうコメントがぽつぽつあったんです。みんな口には出さないけど、人として笑いたいんだな、ということに気付いたんです。 被災地のトイレが臭いとか、においでご飯が食べられないとかもあって、それって何もおかしい話じゃない。人として、とても文化的な話なんですよね。だったら、そこにちゃんとボールを投げよう。笑ってもらったほうが楽しいじゃん、消臭剤を使ってもらったらいいじゃん、って。だから、堂々と「消臭力」のCMを出しました。震災のとき、企業のCMはどんどんACジャパンに差し替わっていったけど、あれってよくないですよね。笑うことがダメみたいじゃないですか。 ――今のコロナ禍の状況に似ていますね。自粛という言葉でいろんなものをふさいで、心が沈んでいくような。 鹿毛:企業側が不謹慎だと自粛するか、視聴者側が不謹慎だと怒るのか。どちらもボールの投げ方次第なんです。よくエステーのCMには商品説明が入っていないと言われますが、「生活の中の~」というテーマはちゃんと入っているんです。商品を売る、買ってもらうではなく、あなたの生活、あなたの心にこれはどうですかと、人に寄り添いさえすれば、震災が起ころうが、コロナが起ころうが、ボールは投げていい。むしろ投げていかないと。 ――今放送されている西川さんの「消臭力」CM。撮影は3月12日で、新型コロナウイルスの問題が大きくなりだしたころですね。 「悲しいときは泣けばいい。ただ、明日の朝には笑っている君がいてほしい。君にこれを伝えたいんだ」。僕はこれを西川さんに歌ってほしかった。最後に「空気を変えるぞ」とバーンと出て、「なんだよ!?」って感じだけど(笑)、これもメッセージなんですよね。 ――「空気を変えるぞ」は生活と世の中、二重の意味に取れますね。 鹿毛:3月のあたり、僕は人の行動、意識、感情がよく分からなくなっていたんです。「頑張る」にしても、震災のときとはちょっと違っていた。でも、「笑いたいんだ」ということに間違いはないと思った。 放送の後、「音楽を聴く余裕がなくなっていたことに気付いた」「子どもと一緒に歌ったら涙が出た」「今日は母の誕生日、みんなで元気に頑張ろう」「この前お店を開けてくれてありがとう」とか、こういうコメントが「#消臭力」でTwitterに流れていました。「消臭力」の話、誰もしてないでしょう。みんな、自分の生活の話をしているだけです。けれど、この人たちが「消臭力」を買ってくれるんです。 ――ちょっと思い違いをしていました。エステーのCMはバラエティー的な面白さで商品の認知を図っているのかと…。 鹿毛:いえ、それでいいんですよ。思い違いをしてくれたというのは楽しさが伝わっているということだから、僕にとってはうれしいことです。 今流れている「脱臭炭」のCMも、僕からのメッセージです。家にいることって、我慢じゃないですか。“stay home”を楽しもうと言われていますが、なかなかそうはいかない。だから、本当にそう思えるCMを作りました。明るい食卓で、「おいしい料理だ! おうちって楽しいな♪」って。愛ちゃん(高橋愛)、れいなちゃん(田中れいな)も良い笑顔をしてくれてね。商品のことなんか全然言ってないけど、それでいいんですよ。 ■ 冒険がない今のCMに、ワンチームで挑む ――企業のCMは広告代理店に依頼し、そこが制作会社と作っていくのが一般的です。広告主側の鹿毛さん自身が制作を行うのは、「作りたいCMを作る」という気持ちからですか? 鹿毛:そうですね…、一つ例を上げましょうか。80年代の話ですが、あの時代って、広告主が自分たちでCMを作っていたんです。制作会社もいたわけだけど、まず企業が自分たちの商品を愛して、CMという船に、自分たちの精一杯を載せて商品を送り出していたんです。それがいつの間にか代理店制作になって、広告主の手を離れていった。 それだと「マーケティングはこうです」「ターゲットは誰です」という合理性の積み重ねになってしまい、すごくつまらない。冒険がないし、そうやってプレゼンされるものって広告主に通すものであって、お客さんに出すものではないんですよ。合理性のマーケティング論って、一見正しそうに思えて実はそうじゃないんです。 ――「人に寄り添う。生活に寄り添う」とは真逆ですね。 鹿毛:そういうのって面白さもそぎ落とされて、なんだか販促物の道具を見せられている気分になりませんか? 面白くないからタレントさんで注目を集めるという図式になってしまうかもしれません。タレントさんの起用は別に否定はしません。エステーだって、西川貴教さんたちにお願いしているわけだし。でもエステーの場合は、タレントさんも含めてCM制作のワンチームなんです。 ――タレントも含めてというのは? 鹿毛:だいたいの場合、CM制作というのは分業制です。企画を考える人、映像を作る人、音を作る人、出演する人。上から降りてくるベルトコンベア式で、監督もCMごとに変わるのが普通です。僕はこのやり方を昔に戻したくて、自分が制作に立って、ずっと同じ監督、同じチームで作り続けているんです。 このチームにはタレントさんも含まれていて、西川さんも一緒にCMを作る仲間なんですね。部屋をご用意していても、西川さんは必ず僕や監督の横に来てくれて、ただ世間話をしている時間もあれば、一緒に映像や音をチェックして、アドバイスしてくれるときもある。僕が作りたいと思うものに、こうして周りの皆さんが力を貸してくれる。それが企業目線ではない、エステーCMの一番の秘密なんですよ。 ――鹿毛さんがクリエイティブディレクターに就いたのは2004年。このときからエステーのCMが変わりましたが、社内での反発はありませんでしたか?  鹿毛:最初は反対されましたよ。「なんだこのCMは!? 商品説明をしろ」と。こっちのほうが売れるんですよと言っても、誰も信用してくれない。でも、本当に売れるんです。その確信はあったし、現に2011年、ミゲルくんのCMのときはライバルとのシェアが逆転し、「消臭力」が1位になっているんです。 皆さんCMに対して誤解しているところがあって、テレビの前にいる方々は商品説明なんて望んでいないんですよ。CMを出す商品だったら品質は既に保証されているんだから、それ以上、きれいになります、臭いが消えますと一生懸命謳(うた)っても意味がない。そもそも朝から晩まで消臭剤のことを考えているお客さんなんていません。それよりも生活や日常に優しく寄り添って、「あ、そうだな。消臭力買おうかな。脱臭炭買おうかな」って。そう思ってもらえるCMのほうが、すっと入っていくんです。経済合理性では考えていなくて、結婚と同じかなって。 ――気持ちを預けられる、安心できる、ということでしょうか? 鹿毛:そうですね。これには預けていいかなって。結婚だって、奥さん、旦那さんにある程度のことは求めると思うけど、合理性ではないですよね。そこはちゃんと心理分析して作っているんです。エステーのCMは、僕からお客さんへのラブレターですね(笑)。 ■ エステーのCMで、出演タレントも一緒に人気者になってほしい ――エステーのCMは歌を絡めることが多いですよね。しかも、ほとんどのCMにダサいというか、シュールというか…微妙な歌が入っています。 鹿毛:(笑)。歌についてはね、予算の面も大きいです。広告費ランキングでいうと、トップ企業の広告費が年間約600億円、競合企業が約200億円。対してエステーの広告費は約28億円。200位圏外です。自ずと放送回数も限られる。その中で記憶に残り、心に届くのは何だろうと考えると、やっぱり歌は効果的な手段なんですよね。 ただその歌も、普通の歌では面白くない。CM業界では、CM曲を一手に受ける“音プロ”(音楽制作会社)があります。ここに頼むと普通の曲が上がってきて、普通のCMになってしまいがちです。かといって、誰もが驚く有名な方には予算の都合もあり頼めません。 ――そこで鹿毛さんが自作を? 先ほど曲作りのアーカイブを見せていただきましたが、ギターを手に、作詞・作曲、仮歌まで手掛けられていたのは驚きです。 鹿毛:エステーのCMに入れたい既存の枠から外れるような曲って、音プロからは上がってこなくて、これも分業制の弊害ではありますね。一つ一つの歌詞を丁寧に作りたいし、だから自分で作っているんです。ただ、ダサい歌なはずなのに、西川さんたちは上手く歌い過ぎるので、違う意味で困ってしまうときがあります(笑)。 ――西川貴教さんたちのことですが、エステーのCMはタレントの押し出しも強く、商品よりタレントを売りたいのかなと思うときがあります。 鹿毛:間違っていません(笑)。一般のタレントCMは、タレントさんの人気を借りてその人気を消費しているわけなんです。エステーのCMだけが人気が出るのでなく、出演いただいたタレントさんの人気度が一緒に上がっていくというものにしたいとずっと思っていました。 西川さんはもちろん大人気者なんだけど、もっと人気者になってほしい。高橋愛ちゃん、田中れいなちゃんのことをもっと多くの人に知ってほしい。この話はご本人たちには言ってませんが、この気持ちはきっと伝わっていると思います。だから西川さんも一緒にCMを作ってくれるんです。エステーのCMでお客さんが楽しんでくれて、タレントさんがますます人気者になってくれるのが僕の一番の幸せですね。 ――高橋愛さん、田中れいなさん出演の「脱臭炭」最新CMの放送が始まっています。こちらの撮影裏話があれば教えてください。 鹿毛:撮影で使った部屋。あれは愛ちゃんの部屋を再現したものです。愛ちゃんのInstagramで徹底的に研究して。そっくりそのままではないけど、びっくりしていましたよ。「私の部屋じゃん!」って(笑)。 撮影は部屋の中で小型ドローンを飛ばしての一発撮りです。増田勝彦さんという小型ドローン操縦の第一人者にお願いしたんですが、冷蔵庫を開けるときの風圧でドローンが飛ばされたり、相当苦労して撮った画なんです。ドローンならではのアングルで、旋回してれいなちゃんの笑顔を覗くところなんか最高ですね。 Zoomでのリモート撮影、その光景を演出するというのも考えましたが、それはよそもやりそうだし、やっぱり生の笑顔が撮りたかった。厳戒態勢の撮影でしたが、2人も人と会うのが久しぶりだったみたいで、楽しんでくれていましたね。それがフィルムに反映されていて、このCMをご覧になった皆さんも、きっと明るい気持ちになれるんじゃないかと思います。 ※鹿毛康司(かげ・こうじ)…エステー株式会社執行役を経て、2020年株式会社かげこうじ事務所を設立。現在はエステーのクリエイティブディレクターとしてCM制作などのコミュニケーション活動に携わる。(ザテレビジョン・取材・文:鈴木康道)

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