中国が目論む「eスポーツ覇権」、 国家の野望の下で倒れるゲーマーも
中国は世界の「デジタル覇権」を掌握しようとしているが、eスポーツ(エレクトロニック・スポーツ)もまたその一角を成す。eスポーツにおける国際的な影響力を確保しようと、その地歩を固めている。(ジャーナリスト 姫田小夏) 【この記事の画像を見る】 ● 中国でeスポーツへの投資、プレーヤー人口が爆増中 中国で、eスポーツが国家の正式に認めるスポーツ種目となったのは2003年のことだ。「ルールと制限時間の中で、知力・体力を駆使し、公平・公正な精神でアスリート同士が競い合うもの」と位置づけ、国家主導で育成に乗り出していることはあまり知られていない。 2020年12月、アジアオリンピック評議会(OCA)は、2022年9月に中国浙江省の州都・杭州市で開催が予定されている第19回アジア競技大会(通称:アジア版オリンピック)から「eスポーツを正式メダル種目とする」と発表した。これが、中国でのeスポーツの選手育成の追い風となった。
2018年、ジャカルタで開催された第18回アジア競技大会で、eスポーツは初めて、公開種目(エキシビション)となり、中国の代表団は2つの金メダルと1つの銀メダルを獲得した。この大会をきっかけに、中国ではeスポーツへの事業参入や投資が急増し、2020年の売上高は前年比44%増の1365億元(1元=約16円)となった。eスポーツ人口も伸びており、同年には4億8800万人に膨れ上がったという(中国ゲーム産業発展研究院「2020年中国ゲーム産業報告」)。 ● 上海で世界的人気ゲーム「LoL」の世界一決定戦 現在、中国では約200都市でeスポーツが普及していて、上海、北京、広州、成都、海口などの都市が勢いを牽引している。特に、上海は「グローバルeスポーツ都市」に位置づけられていて、上海在住の大学生・胡玉祺さんによれば「上海では年間を通じてeスポーツに関わる大会やイベントがめじろ押し」だという。 「グローバルeスポーツ都市」としての象徴が「2020 League of Legends World Championship」大会だ。ライアットゲームズ社(Riot Games, Inc.)が開発した「リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends、以下「LoL」)」は、世界で最もプレーヤー数が多いとされるオンライン対戦ゲームだが、2020年秋に第10回となる世界一決定戦が上海で開催された。 コロナ禍の影響を受けた中国では、2020年上半期だけでも500のeスポーツイベントがキャンセルまたは延期されたというが、中国で開催されるeスポーツイベントのうち40%が上海で開催されている。上海の文匯報は「上海には、国内のeスポーツに関わる企業、クラブ、チーム、ライブ放送プラットフォームの80%以上が集中している」と報じている。 ● 新興スポーツで覇権を取りたい eスポーツという歴史の浅い文化に対し、中国はある野望を持って取り組んでいるようだ。 その一つがここ十数年で構築された中国の「eスポーツ産業」のアジアへの輸出である。アジア競技大会でeスポーツが正式種目になったことは、中国にとってそのための足掛かりを意味する。 新種目が生まれれば、そこには産業界が構成されていく。中国では、トップにゲームメーカーを据え、プロ選手育成やチームの設置、リーグ運営、放送や配信のプラットフォームを形成し、さらにライセンスビジネスやグッズ販売、教育やトレーニング産業などですそ野を広げるという構想を描いている(30年前には存在しなかった日本のプロサッカー・Jリーグの発展や市場形成を想起すれば分かりやすいかもしれない)。