選手権を席捲する「中学時代無名」の選手たち。高校サッカーで開花した“2つの共通点”とは?
第100回大会にふさわしい激闘が繰り広げられている全国高校サッカー選手権大会。節目となる今大会は、中学生時代は無名だった選手たちの活躍が目立っている。“未完の大器”たちは高校サッカーを通じてどのように成長し、現在に至るのか。今では世代別日本代表に名を連ね、プロを視野に入れるまでに成長した選手たちの飛躍の理由をひもとく。 (文=松尾祐希、写真=Getty Images)
中体連出身選手たちが選手権決勝進出を果たした背景
今年度の高校サッカー選手権も残すところ決勝を残すのみとなった。節目の100回を迎えた今大会を振り返ると、早くから期待されてエリート街道を歩む有望株たちが活躍する一方で、中学時代は無名だったタレントの活躍も目立っている。 大津はその代表格だ。準々決勝のスタメン11人中4人が公立中学校のサッカー部出身。しかも、彼らは決勝進出を果たしたチームで欠かせない主軸を担っている。GK佐藤瑠星(3年)、MF薬師田澪(3年)、FW一村聖連(3年)、FW小林俊瑛(2年)。この中で佐藤はU-18代表候補歴があり、小林もU-17代表候補にたびたび招集されている。薬師田もインターハイの活躍が目に留まって代表スタッフが注目していたタレントだ。 彼らに共通しているのは中学時代に代表歴がなかったということ。もちろん、県トレセンや選抜チームに入った経歴があり、全く力がなかったわけではない。ただし、あくまで地元にいるうまい選手であり、全国にその名をとどろかせたり、世代別日本代表に選ばれてバリバリ活躍していたわけではなかった。いずれも大津入学後に才能が花開いた選手たちなのだ。 熊本県の合志市立合志中出身の佐藤は中学校2年生の時にGKに転向。サイズを見込まれてのコンバートだったのだが、大津でそのポテンシャルにさらに磨きをかけた。とはいえ入学当時は、GKとしての課題が山積みで、まだまだ荒削り。190cm近い身長も思うように動かせていなかった。 佐藤に遅れること1年。小林は神奈川県の藤沢市立鵠沼中から大津に入学した。中体連の県選抜に選ばれた実績を持つ一方で、代表歴は一切ない。そうした状況で熊本にやってきたのだが、佐藤と同じく190cm近い身長を持て余し、ステップワークも含めて体をうまく動かせていなかった。 しかし、彼らは誰も想像しないような成長を遂げていく。多くのJリーガーを育ててきた名伯楽・平岡和徳総監督が1年時から彼らを我慢強く起用し、試合の中で経験を積ませながら鍛えていった。もちろん、試合に出るだけで成長できるわけではない。そこで学んだことを持ち帰り、練習で課題克服に取り組む日々を送った。 では大津は具体的にどのようなトレーニングを行っているのだろうか? 練習のスケジュールは月曜日がミーティングのみで基本的にはオフとなる。火曜日はフィジカルトレーニング、水曜日から金曜日まで通常のメニューを消化して土日が試合となる。ここまでのサイクルは他の高校と大差なく、どの強豪校でもやっているような流れだ。ただ、大津が他と違うのは1日の進め方にある。 24時間をデザインする――。平岡総監督が常日頃から口にする言葉の通り、成長するために誰もが時間を無駄にせず動いていく。