小学校通学に使う路線バス 廃線の危機から異例の手法で存続へ 札幌
札幌市南区にある公立小学校の主要な通学手段となっている路線バスの廃止方針が示された問題で、市が検討していた代替案を撤回し、路線が新しいバス事業者に継承されることが決まった。異例の打開策はどうやって生まれたのか。 ◇住民に届いた廃線通知 市営地下鉄南北線終点の真駒内駅から恵開拓記念碑前を結ぶ駒岡線の廃止問題が発覚したのは今年6月。運行会社の北海道中央バスは運転手の不足を理由に来年3月末で廃線にすると地元住民らに通知した。 路線の途中には小規模特認校の市立駒岡小学校があり、全校児童約80人の多くが学区外から駒岡線を使って通学している。小学校近くの駒岡団地などの住民の足にもなっており、路線の廃止に強い反発が起こった。市は代替案として8人乗りのジャンボタクシー運行を示し、市教育委員会はスクールバスの検討に着手した。 一方、駒岡団地町内会が所属する芸術の森地区連合会は中央バスの通知直後から別のバス会社への路線継承を模索。連合会の事務局を担うまちづくりセンターは、複数のバス会社への接触を始めた。その中で協議の場を設けてくれたのが、市内の3系統2路線でバスを運行する札幌ばんけいだった。 井上浩勝社長(60)は「子どもたちが困ることになるのは大変だろう。放っておけない」と考えた。脳裏にあったのは、小規模特認校の市立盤渓小学校。駒岡線と同様、札幌ばんけいが運行する路線バスの利用客の大半も児童が占める。駒岡の住民らの「どうしてもバスが必要だ」との訴えに、「子どもの足を守るのは必須だと思った。住民の熱い思いも伝わった」と振り返る。 同社は貸し切りバスも運行しており、路線と合わせた運転手は15人。路線用のバスは6台しかない。住民が当初求めていた「従来と同じ運行ダイヤ」には応じられず、1台をピストン運行する方針で地元と合意した。2000万円以上をかけ、新しくバス2台を導入することにした。 ◇なぜ札幌ばんけいは路線増やせた? 市都市交通課によると、路線バス会社の撤退を受けて別のバス会社が路線を継承するのは市内で初めて。ただ、担当者は「同様の事例は、今後は望めないだろう」と話す。業界全体でバス運転手が減っており、減便・廃線が主流となる中で増便に踏み切れる企業はなかなかないからだ。 札幌ばんけいはなぜ路線増という決断ができたのか。同社に所属する運転手には路線と貸し切りの両方を運転できる社員が11人いて、融通を利かせやすいという。未経験者を積極的に採用することで、新型コロナウイルス禍以降も人数を維持できていることも大きい。 井上社長は「路線の維持は皆さんが喜ぶ選択肢になる。住民と一体となり、走ってよかったと言ってもらえるようにしたい」と意気込む。 19日にある札幌市公共交通協議会の地区部会でダイヤや運賃などの詳細が決まる。駒岡団地町内会の佐藤優司会長(72)は「現状(平日11往復)から減便にはなるだろうが、継続して走ってもらえるのが一番。住民はバスの時間に合わせた行動も必要になる」。連合会の下総仁志会長(72)は「4月の開始以降、ダイヤに関して利用者の要望が出てくればまた協議したい」と話した。 ◇運転手の不足、各社深刻 道内のバス大手3社は1日のダイヤ改正で計325便を減便をした。昨年12月以降、大幅な減便が続いており、3社の1年間の減便数は計約1200。原因は運転手の深刻な不足で、官民連携で情報発信を強化している。 北海道中央バスは12月、3系統を廃止し、札幌と小樽を中心に139便を減らした。昨年12月、今年4月も大規模な減便を実施し、昨年11月から計851便減。現在は道内で6990便が走る。 ジェイ・アール北海道バスは3系統の廃止を含めて146便減。直近1年間は大きな減便をしていなかったが、担当者は「今年に入ってから人繰りが厳しくなった」と話す。 じょうてつは40便を削減。昨年12月に46便、今年4月に137便を減らしており、この1年での削減は2割に上る。 各社は運転手の待遇改善の他、札幌市と連携して魅力発信に力を入れる。市は北海道アルバイト情報社に委託して職業紹介サイト「未来のしごとの参考書」に3社と札幌ばんけいのバス運転手のインタビュー記事を掲載。今月からはSNSでショート動画を配信する。 札幌ばんけいの井上浩勝社長は「募集活動の効果が出るのは時間がかかる。北海道は本州よりも運転手の待遇が悪く、国には改善を考えてほしい」と訴えた。【片野裕之】