狭まる韓国大統領の包囲網 与党が「秩序ある退陣」路線を放棄?再びの弾劾案の行方は
内乱罪の最高刑は「死刑」 尹氏の処遇は?
韓国検察当局は9日、尹大統領の外国への出国を禁止した。内乱罪は「死刑、無期または5年以上の懲役」となり、韓国憲法が定める現職大統領の「不訴追特権」の例外に規定されている。検察当局は1カ月以内に捜査を終結させたい考えを示しており、年内にも尹氏が拘束・起訴される可能性がある。 韓国の知人たちは「今回、死亡者が出ていないから、普通に考えれば有期刑だろう」という声から、「すでに政治犯罪と化している以上、死刑宣告もありうる」というものまで幅広い。世論を見ながら、「死刑判決、後に恩赦」という展開もありうる。 尹氏の退陣に向けたこうした状況は、実は与党にとって必ずしも悪い展開とは言えない。 野党・共に民主党が「大統領が在職しているのに、内閣と与党が中心になって政権運営するのは憲法違反」と主張しているからだ。実際、軍と警察の指揮権は依然、尹大統領にある。日本政府関係者も「この状態では、誰と協議をしていいのかわからない」と語る。野党は何度でも弾劾決議を発議する構えで、反対集会も続く。12日に2度目の弾劾決議を発議し、14日に採決に持ち込む考えだ。 ただ、韓国憲法は、大統領職が空位になったり、事故が発生したりしたときは、大統領権限代行を置くことを認めている。「拘束」や「起訴」が「事故」にあたるかどうか議論はあるが、与党はこの解釈で現状の正当化を目指すだろう。
世論と次期大統領選にらみ、与野党の攻防が活発に
与党は当初、「早期に秩序ある退陣」を行うとしていた。「秩序」とは、弾劾ではなく、憲法改正による大統領任期の短縮を意味すると、韓国の知人たちは指摘している。 なぜ、弾劾ではなく、憲法改正による退陣なのか。理由の一つは、時間を稼いで「司法リスク」を高め、何が何でも李在明氏の大統領就任を阻止したいからだろう。知人の一人は「李在明氏が大統領になれば、必ず政治的な報復に出る。尹氏だけではなく、保守関係者が多数拘束されるかもしれない」と懸念する。もう一つは、秩序を維持することで、保守が再生する道を探りたいのだろう。 12日現在、韓東勲代表らを取り巻く環境は徐々に厳しくなっている。 韓氏らは10日、与党の所属議員らに対して来年2月から3月ごろに尹政権の退陣を目指す考えを示したが、強い反発の声が上がったという。厳しい世論を敵に回したくないという思惑が議員たちに働いたとみられる。 与党の金サンウク議員は10日、「次に弾劾決議案が出れば賛成する」と語った。12日午前の時点で、与党で弾劾決議に賛成する考えを示した議員は5人になった。8人が造反すれば、弾劾は成立する。 12日には韓氏自身、「(尹氏が)早期退陣に応じる考えがないことを確認した」と語った。韓氏は、「弾劾で職務停止をすることが民主主義を守る唯一の方法だ」とも述べ、「秩序ある退陣」を目指す方針を事実上、放棄した。 韓国の政界関係筋は10日夜、「この流れでいけば、14日にも弾劾が可決されるかもしれない」と語る。ただ、野党には李在明氏に反感を持つ「文在寅派」などはいるものの、有力な対抗馬はいない。与党も同じで、国民の力の所属議員108人で、韓東勲代表を支持するグループは20人程度しかいないとされる。 ソウルの知人の一人は「少なくとも今の状況が1カ月も続くとは思えない。弾劾が成立した後も、尹氏に対する捜査を軸に、与野党の熾烈な攻防が続くはずだ」と語った。
朝日新聞社