KDDI、アパレル向け「XRマネキン」を開発。Google Cloudと連携し、衣服の余剰在庫削減に取り組む
日々のライフスタイルを送る上で欠かせないのが「ファッション」だ。 アパレル産業はいま、大量生産・大量消費の産業構造が、地球環境に大きな影響を与えていることが取り沙汰されるなど、まさに“変革”が求められており、アップサイクルやサステナブルといった持続可能性を意識した新たなアパレル産業のあり方を見つめ直す時期に差し掛かっていると言えるだろう。 【写真】実際に体験してわかった“XRマネキン”のすごさ そんななか、KDDIはアパレル販売向けのソリューションとして、マルチデバイスの高精細XRマネキンを発表した。 XRマネキンは、店頭のデジタルサイネージやタブレット、モバイルなどあらゆる端末で、アパレル商品を360°好きな角度から確認が可能となっている。 2022年5月18日には、アパレルDXにおける取り組みの説明会が開催され、XRマネキンの概要や今後の事業展望について担当者から発表がなされた。 ・KDDIが取り組むのは、業界の課題解決を図る「アパレルDX」。 冒頭では、KDDI株式会社 パーソナル事業本部 サービス統括本部 5G・xRサービス企画開発部長の上月勝博氏が登壇。アパレルDXの取り組みを始めた背景について説明を行った。 KDDIが掲げる「新中期経営戦略」では、サステナビリティ経営とサテライトグロース戦略の2つを据えており、前者はパートナーとともに社会の持続的な成長と企業価値の向上を推進していく経営の指針となっている。 後者は5Gによる通信事業の進化とDX、金融、エネルギー、LX(ライフトランスフォーメーション)、地域共創の5つの領域を中心とした事業拡大を見据えた戦略を策定している。 今回のXRマネキンは、「5Gとテクノロジーの発展で生活体験を革新するLX領域のソリューションの1つとして提供していく」と上月氏。 もともとアパレルDXの事業に挑むきっかけになったのは、アパレル出身の社員が「本気でアパレル業界の課題を解決したい」という熱意を強く持っていたことだった。 「リアル店舗の実物商品とECサイトで確認する商品での見え方には差分も多く、返品も一定数発生してしまっているのが現状です。サンプルや在庫ロスの削減、さらに本当に欲しい商品をどこでも安心して購入できる世界を目指してアパレルDXに取り組んでいます」(上月氏) アパレル業界が抱える問題を解決するために、どうすればサステナブルな産業構造にシフトしていけるのか。 試行錯誤をするなかで昨年から取り組んでいるのが、KDDIのクリエイティブチーム「au VISION STUDIO」が手がける商品企画・サンプル制作のDXだ。 主な事例としては、バーチャルヒューマン「coh」とスマートグラスによるシュミレーションによる商品化前の廃棄ロス削減を狙った取り組みと、服飾専門学生へのデジタル展示支援が挙げられる。 アパレルの商品企画やデザインをする段階では、多くの実物サンプルを制作する必要があり、その際に大量の布地が廃棄されてしまうという業界の課題があるそうだ。 こうした課題を解決するために、5Gやテクノロジーを活用し、サンプルレスで無駄な資源を使わない持続可能なものづくりを支援するべく、au VISION STUDIOはアパレルDXの推進を担う役目を果たしている。 ・XRマネキンはアパレルの販売・流通におけるDXを推進する そしてXRマネキンで新たに取り組むのが販売・流通のDXだ。 Google Cloudのマネージド型リアルタイムクラウドレンダリング「Immersive Stream for XR」を活用し、商品の素材感やサイズ感などを高精細に表現することが可能になっている。 上月氏は「これまでデバイスに依存した他のソリューションに比べ、Immersive Stream for XRとKDDIの持つ5GやXRテクノロジーを連携させることで、マルチデバイスな環境で高精細な商品イメージを確認することができる」と、XRマネキンの特長について話す。 XRマネキンにおけるモデル表現は、2つの方法から可能になっているという。 1つ目はデジタル型紙を使った衣服の3DCGだ。 アパレル業界用のCADなどで制作したデジタル型紙をもとに作られた衣服の3DCGをマネキンに着せることで、リアルな着用イメージを創出できるという。 さらに店頭で販売されている商品に加え、まだ実物がない商品に関しても表現可能なので、予約販売(受注生産)や需要予測にも応用ができるとのこと。 そして2つ目は人の動きを3Dデータ化する技術「ボリュメトリックビデオ」を活用した表現だ。 商品の着用モデルを専用スタジオで撮影することで、動きも含めて3Dデータ化が可能になり、素材感や衣服の動きをよりリアルに再現できるようになっている。 「サステナビリティの観点では、店頭在庫やマネキンなどの展示物を置かず、店舗の広さにとらわれない新たな販売機会を作れること。また、マルチデバイスで商品イメージを確認できることから、いつでもどこでも、お客様が本当に欲しいものを購入できる新しいショッピング体験を生み出せると考えている」(上月氏) ・5Gネットワークとシナジーを生む「Immersive Stream for XR」 続いて、XRマネキンを支えるImmersive Stream for XRについて、グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 カスタマーエンジニアリング 技術本部長の佐藤 聖規氏が説明を行った。 Immersive Stream for XRは、Googleが開催する年次開発者向けイベント「Google I/O 2022」で発表されたものだ。 3DやARをクラウドのGPUで処理したストリーミングで、多くのデバイスに高精細なコンテンツを届けることができるため、「5Gネットワークとの相乗効果が大きい」と佐藤氏は述べる。 「Immersive Stream for XRでは、専用のアプリケーションをダウンロードする必要がなく、新旧どのようなデバイスでも5Gネットワークを介することで、わずか数秒でリッチな3DとARのローディングが可能になっている。また、デバイスの互換性にも優れているので、開発者はOSやSDKのバージョンごとの開発やメンテナンスから解放されるようになる」(佐藤氏) KDDIがアパレル業界が抱える余剰在庫や環境負荷の課題解決を図っていく上で、Immersive Stream for XRは鍵になる技術と言えるだろう。 今後の展望としては、パートナー企業と実証実験を行い、年内に実店舗への導入を目指していくという。 さらに上月氏は「Immersive Stream for XRと5Gを連携し、アパレル業界のみならず他業界への展開も視野に入れていきたい」と抱負を語った。 将来的にはリアルとバーチャルの両方で新しい流通を創出できるような青写真を描いているそうだ。 ・目の前に商品が存在しているかのようなショッピング体験 説明会終了後には、実際にXRマネキンのデモを体験してきた。 デジタルサイネージには商品を着用したバーチャルヒューマン「coh」が映し出されており、指で画面をなぞったりすることで商品イメージを確認できるようになっている。 また、モバイルからQRコードを読み取ることで、手持ちのスマホからでも商品の確認が可能だ。店頭はもちろん販売チャネルごとにQRコードを付与しておけば、いつでもどこでもリアルな着用イメージを見ることができるだろう。 さらにARでも実際の着用イメージを見ることができ、立体的に着こなしのバランスやサイジングなども、自分に合うかどうかもチェックが可能になると感じた。 こうした最先端のテクノロジーを活用することで、新しいショッピング体験の創出が期待できるソリューションになると、デモを通じて実感することができた。 KDDIが取り組むアパレルDXの今後の動向について、引き続き追っていきたい。
古田島大介