元オウム菊地直子被告が無罪確定なら犯人蔵匿で有罪の同居人はどうなる?
菊地被告が無罪の場合、犯人蔵匿罪は成立する?
菊地被告は平成7(1995)年5月に地下鉄サリン事件(不起訴処分)での殺人・殺人未遂容疑で、警察庁から特別指名手配されました。高橋寛人元被告は、特別指名手配犯の菊地被告と認識しながら同居し、かくまったとして犯人蔵匿(ぞうとく)罪に問われ、懲役1年6月、執行猶予5年が言い渡されています。ここで問題となるのが、無罪の人をかくまっても犯人蔵匿罪が成立するのかという点です。 刑法第103条(犯人隠匿等)では、「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する」と規定しています。文理解釈すると、罰金以上の刑に当たる罪を犯した者、つまり犯人をかくまうと蔵匿罪が成立するということです。これを素直に反対解釈すれば、真犯人でない者をかくまった場合は罪にならないと解釈できます。 しかし、坂根弁護士は「このように解釈する学説もありますが、判例では採用していません。『罪を犯した者』には真犯人だけでなく、犯罪の嫌疑を受けて捜査または訴追されている者も含みます」と話し、その理由を説明します。「刑法第7章103条の保護法益からの観点です。立法趣旨は『刑事司法の作用を害する罪を罰する』ということです」。 本件では、菊地被告が警察の捜査対象(特別指名手配)になっているという客観的事実があるのにも関わらず、かくまっていました。結果的に真犯人ではなくても、少なくとも警察が容疑者を取り調べる機会を妨害したという意味で、刑事司法の作用を害していることになるのです。 さらに坂根弁護士は「指名手配犯が真犯人でなければ、取り調べや証拠調べの段階で無実だと分かる可能性もあります。(指名手配犯を隠すことで)その機会を警察が奪われてしまうと、真犯人へ捜査の目が向かなくなります。このように捜査をかく乱することにもなるので、真犯人でない者をかくまっても大きな意味では刑事司法を阻害していると解釈できます」と述べ、現状の法の運用を紹介しました。
実務的な理由として、「司法の円滑な運営」という趣旨もあるようです。「犯人蔵匿罪は真犯人の場合しか成立しない」となると、犯人とされる被告の裁判が終わるまで蔵匿罪の判決が下せないという事態が起こります。さらに、日本では仮に真犯人であっても、起訴猶予などの不起訴で終わる場合も多いので、「真犯人の成否が裁判で確定しないと犯人蔵蔵匿罪の成否を決められない」のは、いろいろと不都合があるようです。 東京高検は今回の高裁判決を不服として最高裁に上告しましたが、菊地被告の無罪が確定しても、高橋元被告の判決は覆らないようです。 (ライター・重野真)