【塀の中での別れ話】予想もしなかった奥さんの裏切り! 驚天動地、一通の手紙《懲役合計21年2カ月~帯広刑務所編~》
元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました。実刑2年2カ月! 今回は、仮釈放が飛んでしまったときの絶望の話。 じんさんが悲しみにくれたのは、なんと、妻からの「別れ」を告げる手紙だった! ただ、なんかオカシイ。たった10日間で人の変節はあるのだろうか⁉️ とにもかくにも塀の中とシャバは「隔絶」の世界であることもたしかなのだ。 この記事の写真はこちら ■驚天動地、一通の手紙 「ジンさん、ユキテル(我が子)も大きくなるし、もう真面目になってください」 ボクにはときどき、怖~い奥さんから、こんな内容の手紙が来ていた。 そんなことを言われても、頭の悪いボクには、法を犯さず生きることは死刑を宣告されるも同然であり、それ以外に生きて行く道はなかった。武者小路実篤の格言「この道より 我を生かす道なし この道を歩く」の実践版だ。 「世間」という、陽の当たる綺麗な水の中で生きようとしても、そこではボクは酸欠状態になり、苦しさのあまり口をパクパクさせて死んでしまうだろう。ボクには陽の射さない濁った海の底が似合っていたし、そもそも棲(す)みやすかったのだ。 そんなボクに手を差し伸べてくれたのは、海の底で生きているユーモラスなフォルムを持つ深海魚たちと同じ、人間社会の底で眼をギラつかせて喰うか喰われるかの生存競争の世界で突っ張りながらも、本音で生きていたユーモラスで愛すべき愉快な不良たちだった。 そんな世界で身過ぎ世過ぎをしながらも淘汰されずに生きてきたボクは、法を犯すことが命を繋いでいく唯一の手段だったのだ。 だから犯罪の申し子のようなボクと納得して一緒になった奥さんなんだから、まともになれ、と言う方がおかしく身勝手だった。でも、ボクにはその気持ちはよ~くわかっていた。 といっても、今までの人生を放り投げて、濁った水の中から陽の射す綺麗な水の中へ泳いで行けるはずもなかった。そう簡単に真面目になれるのなら、とっくに真面目になっていた。ボクは世間の偽善と冷たさが骨身に染みてわかっていたが、ガキのユキテルのために、出所したらどうやって家族を養っていこうかと、真剣に考えてもいた。しかし、ボクのような世間知らずでつむじ曲がりのアンポンタンの頭からは、明解な答えは出てこなかった。生きるために社会の裏街道を歩いて来たボクにとって、この問題は素手でエベレストを登るようなものだった。 それから10日ほどして、3月2日の朝になった。 「サカハラ、一般工場へ出役するから、荷物をまとめておくように。忘れ物がないようにしろ」 点呼がすむと夜勤の看守が来て言った。 初め、何のことかわからず、訊き直してみると、「管区へ行ってから、区長に訊け」と、にべもなく言われ、取り付く島もなかった。 青天の霹靂に、いったいどうしちまったんだと思いながら、咽喉を通っていかない朝飯をそのまま残飯に出した。