珍しき“再開試合”の裏にあった指揮官の決断とエースの意地。川崎FW小林悠が試合後に鬼木達監督とかわした言葉とは?
三浦のアシストからの得点は初
[J1第28節]浦和 1-1 川崎/11月22日/埼玉スタジアム2002 ※8月24日の順延分 【動画】川崎・小林のゴール 荒天に見舞われ、前半45分を終えた時点(1-0で浦和のリード)で中止・延期が決まっていたJ1・28節の浦和と川崎の一戦が、11月22日、約3か月にぶりに行なわれた。 両チーム、怪我人を除き(浦和は大久保智明、川崎は脇坂泰斗が負傷で出場できず)ベンチを含めて前半と同じメンバーで、浦和の1点リードの状況で後半開始時点から再開されたゲームにおいて、輝いたのは開始10分、実質55分にネットを揺らした、川崎FW小林悠だ。 脇坂の負傷を受け、出場した小林は、左SB三浦颯太のクロスに技ありのヘッドで合わせて見事にネットを揺らしてみせたのだ。ちなみに今季甲府から加入した三浦にとっては念願の小林への初アシストで「良かったです」(三浦)と笑顔を見せていたのも印象的だった。 試合は1-1のまま終了のホイッスルを聞いたが、川崎の鬼木達監督は、小林の働きぶりを称賛する。 「このレギュレーションになって(怪我人以外は8月24日の試合のメンバーから変更できないが、川崎は当時先発していた脇坂が負傷中のため、その代わりを探す必要があった)誰をスタートに選ぶか悩みましたが、点を取るというところで、やはりエースを入れるべきだろうと。 (小林と2トップで組んだ)山田新も含めてどちらが45分出ても良いような準備をしていましたし、トレーニングマッチを含めて(小林)悠が得点を取ったので、シンプルですが、そこで結果を出したので起用しました。 今回でいくとトレーニングで、選手は難しい状況だったと思います。というのもヤス(脇坂)の分の一枠にしか入っていけないというなか、誰が入っていくかアピールをする状況で、そこで結果を出した悠が、また本番で結果も出した。素晴らしい姿勢を見せてくれたなと思っています」 ビハインドからスタートした川崎にとっての浦和との異例の“45分”は、再開直後から全力でいけるように、試合前のウォーミングアップでも強度の高いメニューをこなし、インテンシティ高く、切り替えも早く、相手を押し込むサッカーを展開。小林は、鬼木監督のマネジメントに感謝する。 「オニさん(鬼木監督)らしいなと。試合前のミーティングでも、アップはいつもと違うチャレンジをするけど後悔したくないと。勝つための可能性を少しでも上げたいという、オニサンの説明があって、勝つために手を抜かないオニサンの姿勢が活きたと思います」 8年指揮し、今季限りで退任することが決まっている鬼木監督と、37歳の小林は、コーチ時代から絆を築いてきた間柄。 試合後には、小林と鬼木監督と言葉をかわす姿があったが、何を話していたのか。 実は45分を全力で走り切った小林の足は「乳酸がパンパン」な状況で、終了間際のチャンスでクロスをミスしていた。 だからこそ試合後にベンチ前で鬼木監督に「クロスをミスしてすみません」と小林は話したところ、「キツかっただろう、お疲れさん」と、労いながら出迎えてくれたという。 そんな会話をするふたりの表情にはなんとも言えない笑顔が広がり、深い信頼関係が感じられる瞬間であった。 振り返れば、鬼木監督が今季限りでの退任を発表した直後の34節・G大阪戦でゴールを決めたのも小林であり、このストライカーは、恩師へのはなむけの想いのように、今季の3ゴールのうち2得点を、指揮官の大きな決断後に奪っている。 「やっぱり勝ちたかった」と悔しがり常に結果を求め続ける小林と、選手を信じて川崎に数々のタイトルをもたらしてきた鬼木監督。残りの試合数が少なくなってきたなか、ひとまず今季限りで見納めとなる師弟コンビの姿が、珍しき“45分マッチ”に花を添えたと言えるだろう。 取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)