【時代を拓くパティシエール】「エテ」庄司夏子さん
命をかけて仕事をする―。 そんな決意を胸に美しいスウィーツを手がける「エテ」庄司夏子さんのストーリー。
命をかけて仕事をする― その決意から生まれた美しいスウィーツ
漆黒の箱にぎっしり並んだマンゴーの薔薇に、クリスタルのような艶やかな蝶が1匹。まるで楽園の景色を切り取ったように美しい「フルール・ド・エテ」。それが、シェフでありパティシエールでもある庄司夏子さんを世に送り出したシグネチャー・スウィーツ。
東京・渋谷区で、1日1組6名限定のレストランを営みながら「フルール・ド・エテ」の販売も行う庄司さんは、2020年、アジアのガストロノミーランキングを決定する「アジアのベストレストラン50」において「ベストペストリーシェフ」に選ばれました。「名だたるパティシエが並ぶなか、本来は料理人である私のお菓子が評価を受けたことは光栄です」 中学生の頃、家庭科の授業でシュークリームのシューが膨らむ様子を見て感動し、それがきっかけで食の道を志すことになったという庄司さん。高校では調理科を専攻し、和洋中全てのジャンルを勉強します。放課後はフレンチレストランで研修を重ね、卒業後はそのまま就職。その後、有名店で研鑽を積みますが、お父さまの死をきっかけに、いったんは料理の世界を離れました。やがて、ホテルレストランで接客の仕事をしたり、ケータリングを頼まれたりするうちに、再び食の世界に生きることを決意。24歳で独立します。 「その時に、まずは自分を知ってもらおうと思って考えたのが『フルール・ド・エテ』でした」。ジュエリーボックスのような美しいスウィーツはたちまちメディアに取り上げられ、庄司さんは瞬く間に人気者に。「やるからには、命をかけて仕事をする。だから、戦略はきちんと立ててアピールします。そうでなければ、自分が目指す高みには到達しないから」。命がけで生み出した華やかで繊細なスウィーツは、庄司さんの生き方を象徴するかのようです。
ストーリーのある料理にはアートに勝るとも劣らぬ力がある
料理はアートと同じ、と庄司さんは言います。「生産者が時間をかけて丁寧に作った食材に、私たち料理人が手を加え、選び抜いた器に盛ってひと皿を仕上げる。それは壮大なクリエイションで、そこにはストーリーがあります。時間も技も心も注いだ、いわば『食べるマスターピース』」。だからというわけではないけれど、庄司さんはアーティストやデザイナーと積極的に交流し、時には一期一会のコラボレーションを行うこともあります。「実は私、料理人やパティシエよりも、アートやデザイン、ファッションのフィールドの友達のほうが多いんです。お互い刺激になるし、インスピレーションも湧いてくる。そうやって、新しい価値を一緒に創っていけたら素敵ですよね」 (写真)まるで水に浮かんでいるような幻想的なデザート。器として使っているのは、東信さんの「Block Flowers」というアート作品。コースの終盤に供されるこのソルベは、フレッシュな状態で出せるようゲストが到着してから作り始め、ベストタイミングで提供するのだそう。「東さんの作品は、根付きのいちごを永遠に閉じ込めた、いわば永久の美。そこに、はかなく溶けるいちごのソルベをのせました」。まさに、食べるアート作品です。