米国医師がクリスマスに計65万ドル(7000万)の治療費を帳消しにした理由
アメリカの医療費は非常に高額だ。そして国民皆保険のないアメリカでは、一般的に民間保険会社の高額な医療保険か勤務先の団体保険に加入するが、医療保険を持っていても控除免責額や多くの自己負担額を課せられ、患者は多額の費用を負担しなくてはいけない。そんな仕組みに疑問を感じていた医師は、このクリスマスに患者の債務を帳消しにした。
経済的に苦しい患者へのプレゼント
米メディア「ABCニュース」によると、アメリカ・アーカンサス州のがん専門医であるオマー・アティックは、この冬、約200名の患者が負う計65万ドル(7000万円近く)の未払い金を帳消しにした。 パキスタン出身のアティック医師は1991年にアーカンサス・キャンサー・クリニックを開業し、昨年初めに閉業するまで、化学療法や放射線療法などの癌治療を提供してきた。 閉業後に残っていた患者の債務を回収しようとしたものの、パンデミックの影響で経済状況が悪化した元患者たちは、過去の治療費を支払うことができないことを理解した。 そして、このクリスマスに患者の債務を全て帳消しにすることに決めたのだ。 アティックが元患者に送ったクリスマスカードには次のように記されていた。 「アーカンサス・キャンサー・クリニックは、あなたの治療を出来たことを誇りに思います。多くの健康保険が大半の患者の医療費の大半をカバーするものの、患者が負担する免責額や自己負担額の金額も大きいものです。残念ながらそれが現状の医療制度です。 アーカンサス・キャンサー・クリニックは29年間地域に貢献し、閉業しました。そして患者がクリニックに対して負う債務を全て帳消しにすることにしました。 素晴らしいホリデーシーズンをお過ごしください」
高額の治療費の負担に苦しむ患者
アティックは医師として長年患者に接する中で、患者が自分の健康だけでなく、高額の医療費についても悩まされる状況に心を痛めてきた。 国民皆保険制度のないアメリカでは、高齢者や障がい者、超低所得者を除き、民間保険会社の高額な健康保険か勤務先の団体保険に加入する。しかし、このような医療保険にも控除免責額や多くの自己負担額が課せられており、多額の費用を患者が負担しなくてはいけない。 特に治療期間が長期に及ぶことの多いがん治療においては、自己負担分が積み重なり、治療中の収入も途絶えがちなため、金銭的負担が非常に大きい。 アティック医師はこれまで医療費を支払えなかった患者、それによって自己破産を強いられた患者に接し、現状の医療制度の不当さを感じてきた。 だからこそ同医師は自らのクリニックでは、充分な資金や健康保険を持たず、支払い能力に欠く患者の治療も断ることはなかった。だからこそ、クリニックの抱える債務額が大きくなっていったのだという。 そして、パンデミックによって社会が混乱し、苦しむ人々が多い中、それでも不自由のない暮らしができている自分自身が、何かコミュニティーのためにできることはないかと妻と話し合った。自分たちは債務帳消しにしても生活できるのだから、そうして債務を抱えていた患者たちの生活を少しでも良くする手助けをすることにした。 米メディア「アーカンサス・デモクラティック・ガゼット」によると、アティック医師は現在アーカンサス大学メディカルセンターで教授として勤務している。 2013年に非白人として初めてアーカンザス・メディカル・ソサエティーの代表に就任し、2018年には米国内科学会の役員にも選出されたほど信頼が厚い。 アティック医師が債務を帳消しにすることに何か問題がないか事前に相談を受けた、アーカンザス・メディカル・ソサエティーのデービッド・ローテンは、アティック医師のことを、非常に優秀かつ患者に愛情を持って接する医師だと語る。
COURRiER Japon