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全編を人間の顔のアップで紡ぐ超異色作 ツァイ・ミンリャン監督「あなたの顔」

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時事通信

 世界的な映像作家、ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)監督のドキュメンタリー映画「あなたの顔」(全国順次公開中)は常識破りの超異色作だ。 〔写真特集〕米アカデミー賞2020  2013年の「郊遊〈ピクニック〉」で商業映画から引退すると報道されたものの、今年のベルリン国際映画祭に新作「日子」(英題:Days)を出品するなど、精力的な活動を再開しているツァイ監督。5年ぶりの監督作として18年に公開した今作は、1時間16分の上映時間のほぼすべてが人物の顔のアップで、今までにない映画体験を与えてくれる。  冒頭からいきなり中年女性の顔が画面いっぱいに映し出される。時にはにかみながら、目をぐるぐると動かす女性。ついにはこらえきれずに吹き出してしまう。その間、カメラは固定されたままで、ひたすら彼女の表情をとらえ続ける。  その後も次々に中高年の男女が入れ替わり登場し、その数は総勢13人。映画と言うより美術館などで流れるビデオアートに近い雰囲気だ。  構成だけを聞くと、気取った“お芸術映画”を想像するかもしれないが、13人の表情を眺めていると、あっという間に時間は過ぎ去ってしまう。ひたすらカメラを見つめる人や、身の上話を始める人、ハーモニカを吹きだす人、眠りだす人…その反応はそれぞれに個性的で、対象によって照明やアングルを微妙に変えた緻密な作りもあって、退屈させない。  出演者は、最後に登場するツァイ作品常連の俳優、リー・カンションを除き、ツァイ監督が自ら台北市内でスカウトした素人。無表情の中にすら人生を感じさせる表情に、観客は大いに想像力をかき立てられるに違いない。監督は作為なしに一種のドラマをスクリーン中で成立させることに成功している。  中には冗舌に自身の半生を語る人も。言葉がその人物の個性を伝える有効なツールであることを改めて実感するが、一方で「しゃべることがその人の本質を隠すこともあるのではないか」との思いも浮かぶ。人間の顔にフィーチャーした作品でありながら、「言葉とは何か」を考えさせる作品にもなっている。

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