【この顔、4シリーズ新型】M440i試乗 BMWという手練れが造り込む“クーペとしての華”が、見事に宿っていた
新顔の美醜論争 焦点はどこにあるか
text:Kazuhiro Nanyo(南陽一浩) photo:Masanobu Ikenohira(池之平昌信)、BMW 【写真】新型4シリーズの実車、3シリーズ・ツーリングも【じっくり見る】 (73枚) 箱根で実車を目の前にしてみると、画像がインターネットで出回り始めた頃から喧々諤々いわれていたほど、キドニーグリル周りの違和感は感じられなかった。 2世代目4シリーズの斬り込み隊長として日本導入が始まった、BMW M440i xドライブ・クーペのことだ。 ブルーグレイ気味の暗色ボディが、グリルシャッターや周辺の開口部を馴染んで見せてしまうことも幸いしているだろうし、明色のボディカラーならもっと穴を際立たせることだろう。 だがむしろ、新しい4シリーズの前方に膨んだノーズ周りの造形は、縦長のキドニーグリルよりも、その下を囲うU字型のスリットの方がエグ味を醸している、そう見える。 ただしこのスリットは、ラジエーターとエンジンルームとフロア下、左右ブレーキディスクへと、ボディ先端で空力の流れを細かく分けるための、純粋な機能デザインだ。
国内仕様 実車と出会う
似た造形としてトヨタ・クラウンが挙げられるが、同時にBMW 4シリーズの新しいフロントマスクは表現主義的どころか、相当に抑えた機能主義志向であることにも気づく。 唯一、残念なのは、フロントバンパー左右のエッジからゲシュタルト効果的に作り出される水平ラインから、日本のナンバープレートが上にハミ出てしまうこと。 かといって、天地が狭く左右に長い欧州のナンバープレートを羨むとか、欧州オリエンテッドなデザインだと断じるのはお門違いだ。 これはカタチでなく取付位置の問題で、もう数cmだけ下に掲げたところで、車載カメラのレンズやセンサーを隠すことも読み取り視認性を損なうこともないはず。 おそらくアメリカ辺りではそうするはずなので、表向きは自由貿易を標榜する日本のドメスティック行政の差配だろうと勘繰らざるを得ない。
新しい踏み絵は縦長キドニーではない
前置きが長くなったが、クルマの美観や美意識、そしてクーペ不毛の地である日本で、新しい美をクーペで打ち立てようというBMWの試み、その積極性と意気自体がそもそも注目に値するものなのだ。 新しい4シリーズのフロントマスクは戦前のスポーツカーである328や70年代の3.0 CSLといったクーペ、つまり往年のアイコン的スポーツモデルに想を得ているといわれる。 以前、筆者がBMWの元チーフデザイナーの一人、ポール・ブラックにインタビューした時、「私の作ったレガシーはクリス・バングルがすべてぶっ壊していった」と彼は語っていたが、今は横長キドニーグリル、つまりバングル時代のレガシーが壊されつつあるようだ。 およそチーフデザイナー×2世代を経るごとに、継承ではなく破壊が起きて新しく若い顧客層を開拓するのは、BMWの伝統かつ革新的側面ともいえる。 むしろ5年に満たないながらE12からE24そしてE25と呼ばれるM1(E26)のプロトタイプまで、極度に多産だったポール・ブラックだけが、前任者ヴィルヘルム・ホフマイスターのノイエ・クラッセ以来の流れを汲みつつ、後任のクラウス・ルーテやエルコーレ・スパーダに受け継がれた、例外的な時代だったのだ。 ちなみに2019年春からBMWのチーフデザイナーは、バングルの後継だったアドリアン・ヴァン・ホーイドンクに代わってドマゴイ・デュケックが務めている。シトロエン時代にC5のエクステリアを担当したデザイナーといえば、ピンと来る人もいるだろう。