綾野剛、役者をナメていた自分を本気にさせてくれた
「仮面ライダー」が終わってから、同世代の俳優がどんどん世に出て行こうが、まったく焦りはなかったんです。どう考えても、最低限の準備をするのに5年はかかるだろうと。そこからは、いろいろな映画の台本が置かれている台本図書館というのがあるんですけど、そこに行って台本を読んではその映画を見て、映画を見てはその台本を読みに図書館に行く。それを繰り返していました。 高校まで陸上競技をやっていたということもあるのかもしれませんけど、努力するのが一番の近道だという考えがあるので、その積み重ねをやり続けるのがまったく苦じゃないんです。正直、周りで「こいつ、何やってんの…。台本読んでも、何も変わんねえよ」という声が聞こえてきたこともありました。ただ、何も思わなかった。変わることが目的じゃない。その世界に没頭する。その世界に体を預ける。それが必要だろうなと。どんな仕事もそうですけど、人をナメてできる仕事はないですし、特に映像にはその心が映りますからね。今は、必要な準備をしている。だから、焦りは本当になかったんです。 石田さんへの恩返しがあるならば、それは「生きているということ」だと思います。とても、とても、単純な意味で。いい芝居をするだとか、賞をいただくということよりも、監督が生きている間、ずっと僕が生きているところを見せる。監督より先には死なない。見てもらうために生き続ける。それしかないのかなと。 石田さんに“綾野剛”を作ってもらって、仕事を続けてきたことで、また次の流れが生まれてもいるんです。僕の仕事を見てくださっている人がいる。自分も「この人が見てくれているから、仕事をやり続けている」という人ができてきた。ジャンルは違いますけど、例えば、桂南光さんであり、笑福亭鶴瓶さんであり。 見つめてくれる人が1人増えていく度に、なんでしょうね、自分の寿命が延びている気がするんです。言葉にすると、なんだかいい格好しているみたいになっちゃいますけど、もう、自分のためなんかではやってないですからね。見てくださる方に、きちんと届けられるようにやり続けなきゃなと。それが、本当の思いなんです。決して、決して、いい格好するわけじゃなく。もし、自分だけのためなら、とっくに逃げ出してます(笑)。 ■綾野剛(あやの・ごう)1982年1月26日生まれ。岐阜県出身。モデルやバンド活動を経て、2003年に「仮面ライダー555」で俳優デビューを果たす。04年に「Darts till Dawn」で映画初主演。2012年には、NH連続テレビ小説「カーネーション」に出演し、ヒロインの恋人役である紳士服職人を演じる。2013年、映画「横道世之介」「夏の終り」で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。また、映画「そこのみにて光輝く」では日本映画批評家大賞主演男優賞を受賞する。公開中の主演映画「新宿スワン」では、新宿・歌舞伎町で働く金髪アフロヘアのスカウトマンを演じている。共演は伊勢谷友介、山田孝之、沢尻エリカら。 ■石田秀範(いしだ・ひでのり)1962年生まれ。横浜放送映画専門学院(現・日本映画大学)卒業後、東映テレビプロダクションの現場へ。テレビ朝日系「宇宙刑事ギャバン」などを経て「仮面ライダー」シリーズを手がけ、平成の仮面ライダーシリーズ全作品に監督として参加している。 ■中西正男(なかにし・まさお)1974年大阪府枚方市生まれ。立命館大学卒業後、デイリースポーツ社に入社。大阪報道部で芸能担当記者となり、演芸、宝塚歌劇団などを取材。2012年9月に同社を退社後、株式会社KOZOクリエイターズに所属し、芸能ジャーナリストに転身。現在、関西の人気番組「おはよう朝日です」に出演中。