【#佐藤優のシン世界地図探索㉛】世界の多極化、サウジの野望
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく! * * * ――中国が米露の間に立ち、「三大国時代」に入ったと思うのですが......。 佐藤 世界は三大とかじゃなくて、多極化していると思います。 ――以前の連載で、佐藤さんは「これからのキーワードは『多極化』だよ」とおっしゃられました。その通りになり始めていますか? 佐藤 米国の国力が落ちてきたことによって、今まで米国が重石だった国や地域が、あちらこちらで自主性を発揮しています。そして同時に、一見すると日米同盟が強化されているように見えますが、米国との同盟関係に忠実な国に対する負担が増えてるだけのことです。 にもかかわらず、今の日本人には国際情勢が見えづらくなっているのが現実です。円安で賃上げが進まない中、国内のインフレが進行して、日本国民は外に出られません。今、家族4人でハワイに一週間行くと、300万円かかりますからね。 ――海外へ行かずに、熱海に行く。どんどんと国際情勢が見えなくなる。 佐藤 そうですね。 ――たとえばBBCの報道では、先月インドで開かれたG20は「インドの大きな外交的な勝利とみなされている」とあります。これは米と西欧が「ウクライナ戦争は全部ロシアが悪い」という共同宣言を出そうとしたら、インドのモディ首相の調整でうまい着地点が見つかった、ということですか? 佐藤 いや、それ以前の問題で、始まる前から着地点ははっきりしていました。ウクライナのゼレンスキー大統領が「G20に行きたい」と言ったのに、モディ首相は断りました。ここで勝負はついていました。モディ首相が断ったのは「お前に発言させるつもりはない」、つまり、G20首脳会合でウクライナ問題を土俵に上げるつもりはないということです。 ――すると、開催前にすでに勝負はあったと。 佐藤 そうです。インドの利益を考えるとそれしかありません。もちろん、インドはロシアの侵攻に加担することは全然考えていません。他方、米国のウクライナ支援に付き合う必要もないのです。インド軍の装備体系の6割以上はロシア製ですが、新装備は全て米国なので、軍事的にも両国と喧嘩する必要はない。 重要なのは、G7も国連も政治化してる中で、G20は経済の調整をする会議だということ。だから「政治がやりたかったら国連でやれ、G20は本来の経済の調整を忠実にやりたい」というのがモディ首相の姿勢です。 それであれば、ほとんどの国の支持はもらえるし、西側も原則として反対できません。「もしやりたいんだったら核大国で、しかも拒否権を持っている国連安保理で真面目にやれよ」と、G20に回してこないでほしいというのがモディ首相の本音でしょう。 ――今回のG20では全会一致で共同宣言が発表されましたが、もともと米国・西側はロシアのウクライナ侵攻への強い非難を望んでいました。米国・西側がそれを無理強いしたのは焦りの表れ、ということですかね? 佐藤 そうですね。しかも無理強いしても実現できないということは、西側の弱さの表れでもあります。だから、ロシアのラブロフ外相は「これはロシアの勝利」だと評価したわけです。 ――9月19日にアゼルバイジャンが、アルメニアと係争中のナゴルノ・カラバフ自治州で対テロ作戦を開始しましたが、これも多極化のひとつですか? 佐藤 あれは米国のエラーです。 ――そこは米国の重石が外れたのではなく、米国の思惑が外れた?