星野佳路 「年間スキー滑走60日」を諦めて“脱・危機“の経営に専念
星野リゾート代表の星野佳路氏は、緊急事態宣言中に感染者数と旅行需要の予測グラフを、スペイン風邪を参考に作成した。また、3つの基本方針「現金をつかみ離さない」「人材を維持し復活に備える」「CS(顧客満足)・ブランド戦略の優先順位を下げる」を立てた。これら「18ヵ月サバイバル計画」を練り、宣言解除後に計画をスタートする。打つ手はどうだったのか。そして、Go Toなどの観光政策、新型コロナ第3波、2021年の東京オリンピックをどう見ているのか。リゾート運営のスペシャリストが分析と提言を行った。
コロナ終息まで一人の雇用も失わない
─コロナ禍で多くの企業がリストラに追い込まれる中、星野リゾートは初動で「雇用を維持する」と宣言しました。 雇用を守る理由は二つあります。一つは、コロナ後の旅行需要の爆発に備えるためです。コロナで失った利益が戻ってこない以上、私たちが本当の意味で復活できるのはコロナ終息後。その時に活躍できる人材がいないと、需要に対応できません。お金は借りればいいですが、人材は借りられませんから、手放してはいけません。 私は一九九一年に星野温泉(当時)の代表になりました。当時、寂れた温泉旅館にはなかなか人材が集まらなかった。そこで「リゾート運営の達人になる」というビジョンを掲げ、賛同するスタッフを仲間として増やしてきた経緯があります。ビジョンをスピーディに達成するには、自走する組織が必要です。そこで私は、社員が自分の頭で考え、自由に議論し、実行できるフラットな組織を三〇年近く作り続けてきました。その経験から言って、人が育つには一〇年、二〇年かかる。ですから復活を見据えると、一人も失わずにコロナ禍を乗り越えることがとても重要です。 もう一つは、国の後押しです。政府のコロナ対応はいろいろありましたが、私は雇用調整助成金に関しては高く評価しています。人材を維持するための負担の一部を国が持つのは、「解雇するな」という企業へのメッセージです。実際、日本の失業率は欧米に比べて低い水準で推移していて、政策の効果は出ている。これを利用しない手はありません。 ─社員の皆さんの現状はどうですか。 完全復活に向けて、強い結束力を見せています。まだ一時帰休している社員も一部います。仲間が全員仕事に戻れる日まで、サバイバル計画を全力でやり遂げようというムードで社内は盛り上がっています。 その上で、ウィズコロナは長く続くので、このあたりで一旦、社員が休むことができる体制を整えています。というのも、緊急事態宣言明けから、社員は三密回避や衛生面への配慮など、通常以上に神経を使って働いています。いつもより少ない人員、コストで頑張ってきたところに、稼働率が戻り、さらに「Go To トラベルキャンペーン」で客足が上乗せされ、現場は大忙しです。コロナで大変だからといってこの状態を放置すると、社員が疲弊し、大事な人材を失いかねません。社員には有給休暇を消化し、英気を養ってもらうつもりです。