ガラケー支えた三菱電機、デバイス開発者の無念
全盛期に国内2位
ガラケー(ガラパゴス携帯電話)を支えたデバイス開発者は5G(第5世代通信)時代に何を思うのか-。ガラケーは、通信方式など技術的な違いではなく、デザインとして米アップルの「iPhone(アイフォーン)」に代表されるスマートフォン登場前の「折り畳み式携帯電話」のイメージが一般的に強い。独自の進化を意味する“ガラパゴス化”だが、2000年代後半の当時は日本という閉じた市場でのみでひっそりと生息できる、ひ弱な携帯電話メーカーや通信事業者を揶揄する意味が多分に含まれた。ガラケー全盛期に国内2位までなりながらその後いち早く端末事業から撤退した三菱電機の高周波光デバイス製作所・主席技師長の井上晃氏に、日本の携帯電話の歴史などを聞いた。 「5G」時代へ。1から4世代までの通信ネットワークをおさらい ―携帯電話向け増幅器(パワーアンプ、PA)のパイオニアとして、2020年にIEEE(米電気電子学会)のフェロー(最高位会員)を受賞しました。 「IEEEフェローは携帯電話用逆F級PAの開発で受賞した。1998-2006年の(日本独自規格である)第2世代通信規格(2G)『PDC』の時の話で、ちょうどアナログからデジタル方式へ移行して端末が手で持てる大きさになったので、いかに小型軽量で低コスト、長時間通話を可能にするかが課題だった。PAは携帯電話に内蔵する送信アンテナの前で高周波信号を増幅する役割で、一番電気を消費するためもっとも問題視されていた。当時の電池は3.5ボルトだったので、その低電圧において電力効率を上げるために生み出したのが逆F級PAだった」 ―PDCと逆F級PAの特性が見事に合致し、一時は国内市場でかなり高いシェアを獲得しました。 「1998-2006年の間に9700万個の逆F級PAを製造した。国内の携帯電話メーカーほぼ全社に供給していた。ただ、第3世代通信規格 (3G)『W-CDMA』以降の携帯電話端末は別方式のPAが主流になってしまった。一方で、基地局用PAには今でも逆F級技術が用いられており、今後広がる5G時代にも貢献している」 ―ただ、偶然ながら携帯電話用逆F級PAの収束と軌を一にして、国内の携帯電話メーカーはゼロ年代以降、次々に事業撤退していきます。 「3Gから第4世代通信規格 (4G)『LTE』に移ってデータ通信が主流になり、スマホが登場したあたりで日本勢が脱落した。PDCの時は端末の重さを1グラム単位で、通話時間を1分単位で競い合っており、小型で高効率のPAが他社との差別化につながる時代だった。スマホ時代はディスプレーが大きくなったことで、ディスプレーの方が消費電力が多くなり、搭載する電池もかなり大容量になった。顧客のニーズもだんだん電波送信から集積化・低コスト化に変わっていった」