齊藤工さんの「負い目」から始まった児童養護施設との交流。「子どもの顔をモザイクで隠さない」映画『大きな家』
様々な理由で社会的養護が必要な子どもの数は全国で約4万2000人、そのうち半数以上が児童養護施設で暮らしていると言われている。そうした施設で暮らす子どもたちの本音やリアルな生活は、なかなか社会で共有されることはない。 齊藤工さんがプロデュースするドキュメンタリー映画『大きな家』(12月6日から東京・大阪・名古屋で先行公開、同20日から全国順次公開)は、そんな児童養護施設に暮らす子どもたちの本音を捉えた作品だ。齊藤さんは、本作の舞台となる施設に、かつて1日限定のイベントで訪れたことがきっかけで、その後も足を運ぶようになったという。 本作は、出演者への配慮のため、予告編も本人が特定できないように作り、配信やパッケージ販売も行わず映画館のみで公開される。作品の収益は劇場公開のみとなるため、商業的なリスクはあるが、被写体となる子どもたちの安全を最優先に考えた上での判断だ。 そんな本作の展開などについて、プロデューサーである齊藤さんと監督を務めた竹林亮さんに話を聞いた。(取材・文=杉本穂高)
なぜ施設に通い続けたのか
本作の発端は4年前、齊藤さんが施設を1日限りのイベントで訪れたこと。その時は、その一度きりの訪問となるはずだったが、そこで出会った少年の表情が忘れられなかったという。 齊藤「その時出会った子たちの中に、ピアノが得意な男の子がいたんです。彼が『今度ピアノ聴かせてあげるよ』と言ったんですけど、僕はまたそこに行くことを想定していなくて、『また来るのかな』みたいな表情をしてしまったんです。彼はその表情を見逃さず、乾いた目をしているように僕には見えました。それが気になってしまい、時間を見つけては通うようになりました。それほど、一度きりの支援活動として来て、二度と来ない大人が多かったということでもあると思います」 そんな負い目から始まった施設との継続的な交流が、映画製作というアイディアへとつながっていったのは、竹林監督の『14歳の栞』だった。 齊藤「最初は映画にしようとは思っていなかったんです。ただ、施設内に講堂みたいな上映できるスペースがあるので、そこで子どもたち自身に自分たちの日常を見てもらえるものを作ってはどうかと想定していました。公に見せるのは難しいだろうと考えていたんですが、そんな時に、竹林監督の『14歳の栞』を見て、これなら子どもたち(のプライバシー)を守りながら、多くに人に届けられると、点と点がつながった気がしたんです」 『14歳の栞』は、とある中学校のクラス全員の一年間に密着したドキュメンタリー映画で、劇場公開のみで配信やパッケージ化はしていない。SNSでの誹謗中傷やプライバシーの詮索・侵害は控えてほしいと記した紙を観客に配布するなど、被写体の保護を優先した姿勢が作品の内容とともに評価された。 実際に『14歳の栞』の劇場公開は話題を呼び、1館からのスタートで45都市まで拡大。今もスタッフと生徒たちの交流が続いているという。 竹林「『14歳の栞』の撮影をしている時、映像として残り続けることで、子どもたちが将来どこかで誰かに『これお前だろ』と言われたりするかもしれないという状況を想像できてしまったんです。配信やパッケージとして残すと良くないことが起きるかもしれないと思って、映画館だけで上映しました。 その頃は、SNSの状況を見ていて、人に対する信頼が僕の中で落ちていたんです。だから、映画館というクローズドな場だけで公開するとはいえ大丈夫かなと心配はあったんですが、上映時に丁寧にお願いしたところ、観客のみなさんが本当にきちんと趣旨を理解してくださいました。撮影から4年が経って、あの時の生徒と話すことがあるんですが、これまでも特段、嫌な目に遭わずに済んでいると聞きました。この体験を通して、僕も人への信頼を取り戻すことができました」