Jリーグ初放映で大失敗…外資系のDAZNが“日本式の謝罪会見”を完璧に乗り切れた舞台裏
私が大学時代に読んだ大江健三郎氏の『見るまえに跳べ』という小説がある。原題であるW・H・オーデンの同名の詩は臆病な自分にいつも何かを突きつけてくるものだった。DAZNとの契約に際しても書棚からこの本を手元において、前例のないチャレンジに向かったことを覚えている。 ● 全試合ライブ配信の初日に いきなりの大事故が発生 スポーツ界における放映改革の象徴とも言えるDAZN。今でこそネット配信のABEMAを通じて多くの人々がFIFAワールドカップ2022カタール大会を目撃したが、私がチェアマンに就任した当初、ヨーロッパのサッカー五大リーグでさえもサッカー中継は衛星放送やケーブルテレビなどが主流で、全試合をネット配信に舵を切るリーグはなかった。 スポーツは試合結果を知ってから観るのでは面白くない。いつでも、どこでも、どんなデバイスでも視聴できるインターネットとはきわめて相性がいいはずだ。しかし、これは既存の放送各局にとっては新たな競合の参入でもある。
いわば業界注視の中での鳴り物入りの大型契約だった。「緊張するほうを選ぶ」と自らに課してはいたが、相当難易度の高いプロジェクトだ。そうしたこともあり、2017年のリーグ戦開幕に向けて配信の準備はJリーグチーム、DAZNチーム一丸となって入念に重ねてきた。 しかし、多くの関係者が固唾をのんで見守る明治安田生命Jリーグ第1節から配信が90分、まるまる映らないという大事故がいきなり発生してしまう。2月26日の日曜日、17時03分キックオフのガンバ大阪対ヴァンフォーレ甲府の試合において、誰もが目にしたのは、画面の中央でくるくる回る渦巻だけだった。 私はJリーグのオフィスでさまざまなタブレットや端末を並べ、開幕節の配信を楽しみにしていたのだが、信じられない現実に呼吸が止まりそうになり、まさに目が回る思いだった。もう首をくくるしかないのかもしれない、そんなことも考えた。ネット上では激しいバッシングが飛び交っている。