Jリーグ初放映で大失敗…外資系のDAZNが“日本式の謝罪会見”を完璧に乗り切れた舞台裏
Jリーグが2016年、DAZNと10年2100億円の契約を結び、試合のネット配信を開始したことは大きな話題を呼んだ。しかし、配信初日からシステムトラブルが発生し、ファンからの不満が噴出する事態となってしまった。その時、Jリーグチェアマンの村井満氏が取った神対応とは?※本稿は、村井 満『天日干し経営:元リクルートのサッカーど素人がJリーグを経営した』(東洋経済新報社)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● Jリーグがサッカーリーグで世界初の試み 公式戦全試合をライブでネット配信 Jリーグは世界のサッカーリーグに先駆けてその配信契約を2016年に締結することになる。DAZNとの新たな放映契約は世界にも大きく発信された。10年2100億円という契約期間や契約金額はこれまでの日本スポーツ界では初のもので、その記事は『日本経済新聞』の1面トップ扱いであった。 また、J1からJ3までの公式戦全試合をライブでネット配信するという試みも世界のサッカーリーグでは初のチャレンジであった。 しかし、Jリーグにとってきわめて重要視したことは、試合動画の撮影をJリーグの管理下で行ない、その制作著作はJリーグが保有するというものであった。サッカーの魅力を誰よりも知るJリーグが独自のカメラアングルを決め、魅力を最大限引き出すコメンテーター(解説者)を手配する。 得点シーンのリプレイなどはシュートのみならず得点者の表情やベンチの雰囲気、相手のGKの様子などを映し出す、統一のカメラアングルや順番とすることで、Jリーグとしてファンにはおなじみの映像ブランドを確立していく。何よりデジタルプラットフォームを通じて瞬時にその映像はクラブに伝わり、ネットやニュースへの提供を行なうことも可能にした。
● 放送局任せではなく 自前の映像を売るビジネスへ DAZNとの契約のすべての前提は、そうした映像データのオーナーシップであった。金額の多寡や契約期間の長短だけでなく、「反動蹴速迅砲」(編集部注/『キャプテン翼』の必殺シュート「反動蹴速迅砲」に、中村憲剛と大久保嘉人が挑戦。Jリーグ職員がその動画をアップしたところ、1週間で400万再生を達成した。ここから筆者は、映像著作権を放送局に渡さず自前で持つことの重要性を知った)の学びを前提に置いたのだ。従業員の創造性を傾聴することなしには業界の常識を変える改革は覚悟できなかったかもしれない。 その道の専門家や学識経験者が私を導いてくれるわけではない。契約の内容の検討や交渉は、当時常務理事だった中西大介やJリーグメディアプロモーション社長の小西孝生らを含めた少人数のチームで行なった。 誰にとっても未経験の世界だった。時に正解のない中で、従業員の試行錯誤や遊び心の中に重大なヒントが隠されていたりする。そうした岐路を歩むと、時に誰も予期していない未開の地に足を踏み入れることにもなる。そのときは、大きな不安や迷いが存在する。