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『BEASTARS』著者が語る、父・板垣恵介との思い出と生活者としてのポリシー

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リアルサウンド

 初連載作品『BEASTARS』で主要漫画賞を総ナメにした板垣巴留が、生まれ育った家庭環境や甘酸っぱい学生時代の思い出の数々を綴ったエッセイ漫画『パルノグラフィティ』が、8月6日に単行本化した。格闘漫画の金字塔「刃牙」シリーズの作者である父・板垣恵介をはじめ、母、二人の姉、そして祖父母と過ごした日々をユニークに振り返る本作は、地に足のついた生活を大切にする作者の横顔を映し出す。本作を描いた理由や家族への思いを、板垣巴留本人にメールインタビューで応えてもらった。(リアルサウンド ブック編集部) 『パルノグラフィティ』 ■記憶の断片を自分の脳内で解析 ーー第1話で本作の執筆の動機は担当編集の方からの提案だったことが綴られていますが、どういう経緯でエッセイ本のお話が来たのでしょうか。また、巴留さん自身はお話を聞いて、なぜ受けようと思ったのでしょうか。 板垣巴留(以下、板垣):大学時代の1年間、ブログにエッセイ漫画を週に1本上げてて、それを読んでた編集さんが(エッセイ漫画の連載をしませんか?と)声をかけてくださいました。大学の時に「何か小さなことでも1年間継続してみたい」と思って地道にやっていたことが、こうして仕事に繋がることが感慨深くて引き受けました。 ーーエッセイ本執筆にあたり、まず行ったことは何ですか? 過去の出来事を思い出すために、執筆前にご実家に帰ったり、ご家族と思い出話をしたりしたのでしょうか。 板垣:家族に電話して、執筆許可を取りました。あまり取材はしなかったと思います。『パルノグラフィティ』は記憶の断片を自分の脳内で解析する描き方をしたかったので……。 ーーお祖父様をドラキュラの姿で描いた理由は書かれていましたが、お母様とお父様の姿も印象的です。お二人をこのようなキャラクターデザインで描かれた理由を教えてください。 板垣:『あたしンち』(けらえいこ/KADOKAWA)が大好きで、日常の登場人物のデザインがファンタジックというギャップを私も取り入れたいと思って挑戦しました。 ーー「最終的には“ままならない自分”と向き合うエッセイになった」と書かれていましたが、エッセイ本を通して何か他に気づきはありましたか? 板垣:やっぱりジャンル問わず、漫画は主人公に魅力がないと描き続けられない……ということです。エッセイ漫画の主人公って、要するに自分になってしまうのですが、そうなるとどうしても読者に嫌われないようにちょっと良い人ぶったり、かなり誇張した表現をしたり、そういうアレンジは心苦しいながら、やらざるを得ませんでした。 ーー読者からとくに評判の良かったのはどのお話でしょうか? また、巴留さん自身が思い入れのあるお話も教えてください。 板垣:高校時代に学校をサボって空港に行き、ジョニー・デップを出待ちした話です。あの話はジョニー・デップを見た場面ではなく、その前後をメインに描いたのですが、人の記憶って案外そういう細部が刻まれていたりするので、そこが評判に繋がったのかもしれません。私もあの話はとても気に入っています。 ーーご家族の反応はいかがでしたか? 幼い頃からお母様は家族の写真や絵を飾っていたとのことですが、今回のエッセイ本も飾られているのでしょうか。 板垣:あ! 確かに……飾っているでしょうね。お正月の帰省でチェックします。 ■食事のマナーは厳しかった ーー漫画を描いていると長女のお姉様に話した際に「目指しちゃえば?」と背中を押してくれたのは大きかったように感じます。絵を最初に褒めてくれたお母様や小さい頃に一緒にストーリーを作って遊んでいた次女のお姉様の反応は覚えていますか? また、漫画家の先輩でもあるお父様は何とおっしゃっていましたか? 板垣:両親に「漫画家を目指したい」と言ったら「巴留の自由だけど、先にどこかしら就職した方がいいと思う。後から好きなことを仕事にする幸せを噛みしめられるから」というニュアンスを言われました。確かにその通りだと思って就活したら……まぁ全滅だったので直行で漫画家を目指すことになりましたが。 ーーエッセイ本を拝見していると、ご両親・お姉さんたち・お祖父さんたちは褒めて巴留さんを育てているという印象を受けました。逆に怒られた記憶はありますか? 板垣:めちゃくちゃあります。いい家庭で育ったと自負していますが、厳しい家庭だったことも確かです。特に食事のマナーは厳しかったですね。 ーー子供の頃から大好きだったというクリスマスで、思い出に残るプレゼントは何でしたか? また、それはなぜ印象に残っているのでしょうか? 板垣:とっとこハム太郎の地下ハウスです。本当はハムハムハウスが欲しかったんですけど、サンタさんが大好きなので「発注ミスした私が悪い……」と歯を食いしばりました。あれは少し大人になったクリスマスでした。 ーー漫画家になってからお父様とも定期的に会われていることも描かれていましたが、そのときは漫画家同士、お互いの作品についてのお話はされますか? 漫画に対して、感想やアドバイスで印象に残っていることがあれば教えてください。 板垣:もう今では、自然と漫画のことばかり話すようになりました。久々の一家団欒の場でも私と父だけはずっと仕事の話をしているので、姉たちや母に申し訳ないくらいです。父からの印象に残っている言葉は「お前、このオオカミに一生食わしてもらえるぞ」ですかね。オオカミが主人公の漫画を描いているので。 ーー末っ子であるゆえに自分が生まれる前の歴史が分からず寂しかったと書かれていましたが、逆に末っ子で良かったと思うことはありますか。 板垣:これはかなり個人的な見解なのですが、物語の主人公って末っ子設定が多い気がして、それに気づいた時は幼心にも何か擽ったい嬉しさがありました。 ■天才ぶることの白々しさを感じ始めた ーー巴留さんの作品や今回のエッセイ本を通して、“死や生”をとても意識されている印象を受けました。(例えば、就活で祖父の死から感じたことを面接官に話したというエピソード、末っ子として家族全員を看取る決意など)何か死を意識する出来事があったのでしょうか? 板垣:私はかなり幼い頃から祖父母やいとこが亡くなっていたので、幼少期はしょっちゅうお葬式に行っていました。まだ人の死の受け入れ方を知らないうちから、亡くなった人の顔を見てきた経験が大きいと思います。 ーー表現者としての自分だけではなく、「健全な生活者としての自分」を保ちたい、無害な妻になりたいと何度か本の中で出て来ましたが、それはいつ頃から感じでしたのでしょうか。美大の頃はうどん屋で働くことで「健全な生活者としての自分」を保っていたとのことですが、現在そのために行なっていることはありますか? 板垣:美大に入ってから、天才ぶることの白々しさを感じ始めたのだと思います。本当の創作者は地に足をつけて、生活者としての自分も確立して生きていると。だから私は週刊連載をしながら毎日しっかり寝てるし家事もするしお出かけもするよう心がけています。 ーーお酒を飲まず規則正しい生活を送っているとのことですが、漫画家の方できちんと睡眠をとって規則正しい生活を送っているのは珍しいことだと思いました。それはやはり、ご祖父様の「嫌なことは先に終わらせる」という教えが身についているからですか? 板垣:というより、私には先述したように生活者として生きるポリシーがあるのだと思います。あと単純に体内時計が中学生のまま止まっているんでしょうね。 ーー『BEASTARS』に続き『パルノグラフィティ』を連載したことで自覚した“漫画家・板垣巴留の作風”のようなものはありましか? 板垣:自分で言うのも恥ずかしいですが、やはり人の人生に宿る”凄み”が好きです。

苫とり子

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