かつてない「死神」の誕生 芥川賞作家がユーモラスかつ痛烈な筆致で描く、“死”と“家族”の物語
作中の死神は饒舌だ。どこかユーモラスな語りで、だんだんと日常に介入してくる。 「自分の中で悶々としているものをそのまま書くのではなく、この作品では『どうなるんだろう』と思わせる展開にしたかった。死神の姿は出会った当初の中学生の主人公より年上、30歳くらいの男性の見た目にしました。決めるまではハリー・ポッターに出てくる『屋敷しもべ妖精』のような存在や子ども、猫だったら──など考えたんですが」 死を選んだ人々の話も登場する。性被害に遭った女性、戦争から帰ってきた画家、母親と息子の葛藤などが語られ、自分の死に取り憑かれていた主人公は自分ではない誰かの死にも出会っていく。 「デビュー直後は主人公のことだけを書けばいいと思っていたんですが、今回は主人公以外の人も生きて死んでいくし、『昔こんなことがあった』という視点も入っています。終わり方はいつも『このへんかな』と思って決めています。今回は『やっぱり死にたくないよね』という気持ちもあって死神との関係をどうするのかを考えました」 物語に呼応して、変化してゆく文体も魅力的だ。新しい「死神」像が登場する本書は、若い読者にも読んでもらいたい。 (ライター・矢内裕子) ※AERA 2024年12月2日号
矢内裕子