懐かしの駄菓子「フルーツヨーグル」が60年間愛され続ける理由
かつての子どもたちの憩いの場だった駄菓子店、そこで一際輝きを放っていた商品がある。ヨーグルト瓶を模した小さなプラスチック製の容器に入り、パッケージにはゾウのイラストが描かれ、甘味と酸味のきいたクリーム状の駄菓子といえば、もうおわかりだろう。昔からその存在は知っているが、意外にもフォーカスされる機会の少ない“名品”を紹介するシリーズ、第1回はサンヨー製菓の「モロッコフルーツヨーグル」だ。(フリーライター 岡田光雄) ● 類似商品は淘汰され レシピは門外不出 中高年の読者が子どもの頃、100円玉や50円玉を握りしめて足繁く通った場所といえば、駄菓子店ではないだろうか。予算の硬貨1枚の中で、雑多に並べられた駄菓子の中から最大限の満足度を得るため真剣に商品を選ぶ。 そんな群雄割拠の駄菓子市場の中で、最も人気だった商品の一つといえばモロッコフルーツヨーグルだ。現在の単価は20円で、当たりが出ればもう1つもらうことができる。口どけのよい食感に、さながらヨーグルトのような甘酸っぱい美味が特長だ。 1961年に発売されるやたちまちヒットし、その後の最盛期には十数社から類似商品が発売されたが、そのほとんどが淘汰されて今や本家も含めて数社ほどしか残っていない。 サンヨー製菓3代目社長の池田光隆氏は、その味の秘密をこう明かす。
「材料のほとんどは、マーガリンなどにも使われている植物油脂で、口どけのよい食感を出すために2種類をブレンドしています。材料の種類や配合比率などのレシピは企業秘密ですが、最も大切なのが温度管理。植物油脂は季節によって混ぜる割合を変え、オールシーズン常温にしておかないと、上手にホイッピング(空気を含ませながら混ぜる)ができず、あの独特の食感を表現できなくなってしまいます。そのため、工場の近くに住んで夏場や冬場は夜も様子を見に行かなければなりません。そこまで手間暇をかけて、ようやく他の類似商品にはない“最後の一味”を出せるのだと自負しています」 本家のモロッコフルーツヨーグルが生き残れたのは、こうした“職人の技”があってこそなのだ。 ● 徹夜で味の研究を重ね ヨーグルト瓶をヒントに モロッコフルーツヨーグルが60年続くロングセラー商品となった背景には、開発までの並々ならぬ努力があったと、池田社長は振り返る。 「モロッコフルーツヨーグルは先々代の祖父が開発しました。当時、弊社ではチョコレート菓子の『ウィスキーボンボン』(現在は生産中止)をメインに作っていましたが、暑い夏場はチョコレートを流通させることができないため作れず、さらにその時期は子どもたちの食欲も落ちる。そこで、暑い時期にでも食べやすい甘酸っぱいお菓子を作ろうとなったわけです。そのときすでに祖父は、ヨーグルトを模した涼しげなお菓子をイメージしていましたが、当時は類似商品もなかったため、粉まみれになって試行錯誤の日々。また、日中はウィスキーボンボンを家族総出で、早朝から22時頃まで作らなければならなかったため、終業後に祖父は連日ほぼ徹夜で研究開発を重ねて、ようやくモロッコフルーツヨーグルが完成しました」 同商品の特徴である容器にも狙いがあったという。