コンクリートの建物の中に木造3階建ての家が入ってる!!!! 外観からは想像できないユニークな構造の家が誕生した理由が面白い!
桜の大木にご近所さんが集う素敵な家
東京世田谷区の住宅地に建つユニークな一軒家。敷地内には、まるで建物と一体化したかのような桜の大木がそびえ立っていた。雑誌『エンジン』の人気企画「マイカー&マイハウス クルマと暮らす理想の住まいを求めて」。今回は桜の大木から始まった家づくりのエピソードが素敵な家のストーリー。デザイン・プロデューサーのジョースズキ氏がリポートする。 【写真21枚】コンクリートの建物の中に木造3階建ての家が入ってる!!!! 外観からは想像できないユニークな構造の家の詳細画像をチェック ◆建築家を悩ませた巨大なクルマ 敷地の桜が美しく咲いている、東京都世田谷区の山田直記さん(45歳)一家のお宅。家が建つ交差点は、駅から随分と離れた住宅街にあるが、心なしか人通りが多い。人に幸せを与える桜の木は、街の景色の一部であり共有財産なのだ。それにしても見事な桜である。幹は太く、高さは隣の母屋を遥かに凌いでいる。この家を設計したのは、建築事務所「コンマ」を夫婦で主宰する、神田篤宏ひろさんと佐野ももさん。山田家と神田家は、お子さんが幼稚園で同級生だった頃からの「パパ友・ママ友」である。 2つの家族が出会ったのは10年ほど前。当初から山田さんは、神田さん夫妻と自邸の設計の話をしてきた。当時はマンション住まいだった山田家。家作りの条件は、所有している通称「60」のトヨタ・ランドクルーザーが納まるビルト・イン・ガレージがあること(去年、後期型から1987年製の前期型に買い替えた)。キャンプをするため、形が気に入って手に入れたランクルは、80年代のクルマで錆が出やすく、愛車保護のためにガレージは絶対条件なのだ。もっともこの巨大なクルマが、建築家を悩ませもした。 山田さんは土地を探してきては神田さんに相談。家のプランを作ってから土地が取得できるかを問い合わせるので、誰かに先を越されたことも。プランが日の目を見ることなく終わってしまうことも数度で、土地探しは困難を極めた。親しい間柄でなければ、こうしたやり方は、まずできないだろう。 ◆ひょんなことから桜の老木のある土地を購入 そしてある日、マンション近くの駐車場が売りに出た。売主の親戚のお嬢さんが、小学校で貰ってきた苗を植えた桜が老木にまでなった敷地である。先方は桜を切ってしまう事を提案したが、樹木医の診断によればまだまだ元気とのこと。桜を生かした家づくりを行うことにする。 山田さん夫婦は地方出身であるが、お祭りに参加したり、街のSNSを制作したりと、地域に密着した生活を送ってきた。望んだのは「街に開いた家」。マンションの一室ではなく、道路から直接アクセスできる一軒家で、地域のためになる活動を考えていた。そして建築家が何年もかけて提案してきた過程で浮かび上がったのが、カフェを併設した家である。育児の終わった母親や高齢者など、地域の人たちが気軽に触れ合える場所を、自宅の一部で提供しようというのだ。どこか公共施設のような役割のある家である。 「公共施設ならコンクリート造」と山田さんは話すが、この家は2階建てのコンクリートの建物の中に木造の3階建ての建物を入れたようなユニークな構造。とはいえ家の中に入れば、普通のスキップ・フロアー住宅のようで、奇を衒った感じは特にしない。 間取りは1階が大きなガレージとカフェ・スペース。ガレージ扉はガラスの引き戸で、ランクルの顔が道行く人たちからも見える。カフェ・スペースは、仕切ればそこだけ誰かに貸し出すこともできる構造だ。週末はランクルをコインパーキングに停めて、ガレージをイベント・スペースにすることも可能。先だっては、桜の木の下にある来客用のパーキングに街のキッチンカーを招いて、小さな催しを行った。もっともこの家の完成はすでにコロナ禍にあった2年前。カフェの本格稼働は少し先になりそうだ。 ◆人を持てなす家にしたい 入口は2階で、桜の根を避けるため、カーブした外階段で登っていく。途中にある踊り場の下は、半地下の部屋。家族が楽器を楽しんだりするスペースだ。 コンクリート造りの建物の外枠は、一つの階の高さが普通の家の1・5階分。山田邸の玄関脇のバルコニーは、一般的な家の2階よりも少し高く、目の高さで広がる桜を眺めることができる特等席だ。 玄関扉を開けると、大きなリビング・ダイニング・キッチンがあり、一部が吹き抜けになっている。2階分の高さがある窓からの桜の眺めは圧巻だ。驚いたのは、レンジやシンクを備えたテーブルの幅が3mと巨大なこと。キッチン・テーブル周りはシンプルに見えるが、随所に工夫が凝らされた重要な場所。部屋の中の高低差が上手く利用されている。なかでも、テーブルを挟んで料理をしながら、椅子に掛けた人と同じ目線でお喋りができるのは大きい。実は山田さん、料理で人を持てなすのが趣味。建築家の神田さん夫妻も、「設計の打ち合わせと称して、何度も山田さんの料理をご馳走になった」。 3階は水回りと主寝室、子供部屋、そして山田さんのホームオフィスが。会社員だが在宅勤務が多かった山田さんは、現在ほぼ自宅で働いている。ZOOM会議の際、子供たちは離れた半地下の部屋で遊んでいるそうだ。「この家ができて、朝早くから働くようになりました。仕事は早く切り上げ、19時ごろからお酒片手に夕食を作り始め、そうこうしているうちに妻が仕事から帰ってきて、一緒に飲み始めます。9割は僕が食事を作っているかもしれません。週末も、友人を招くことが多いですね。キャンプが好きだったのは、料理で誰かを持てなせるから。それがこの家で暮らし始め、キャンプに行きたい気持ちが随分と薄れたものです」 仲のいい建築家が長年考え抜いた山田邸。本当に居心地がよい家になったのは、間違いないようだ。 文=ジョー スズキ 写真=田村浩章 ■建築家:神田篤宏 1972年生まれ。早稲田大学大学院修了。佐野もも 1976年生まれ。東京芸術大学大学院修了。共に北川原温の事務所に勤務した後に独立し、コンマを共同設立。写真は虎ノ門ヒルズ近くの店舗兼住宅。今回紹介した山田邸で、建築家の登竜門と呼ばれるJIA新人賞を受賞。注目の存在に。 ■お知らせ:雑誌『エンジン』の大人気企画「マイカー&マイハウス」の取材・コーディネートを担当しているデザイン・プロデューサーのジョースズキさんのYouTubeチャンネル「東京上手」がスタート。第1回配信は、エンジンでも紹介したことのある国際的建築家、窪田勝文さん設計の山口県のミニマリスティックな住宅。最新のルームツアー、小山光さん設計の「プールのある葉山の別荘」も配信中。必見です! (ENGINE2022年6月号)
ENGINE編集部