工芸から科学まで、途上国ニジェールの粋を映す博物館
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【2月5日 AFP】世界広しといえど、西アフリカ・ニジェールの国立博物館に匹敵する博物館はまれだろう。展示の内容は、芸術、歴史、恐竜、核エネルギー、工芸品、音楽、おまけに生きた動物までいる。そう、ここは動物園でもある。 見学者も同じくさまざまだ。国内各地から首都ニアメーまでやって来た人々、学校の団体、羽振りがいい外国人観光客、そして路上の子どもたち。 24ヘクタールの敷地に立つ博物館には、世界最貧国の一つ、ニジェールの文化の粋が詰まっている。富裕国にとっては取るに足りないだろう金額の予算で、博物館は存続している。 入館料はわずか50CFAフラン(約10円)。おかげでどんなに貧しくても入り口をくぐり、宣伝がうたっている「動物相と文化」に触れることができる。 博物館は「ニジェールを映す鏡、社会や文化を反映しています」という館長のハラドゥ・ママネ(Haladou Mamane)氏。同氏は文化、歴史、考古学、古生物学における同博物館の価値を力説した上で、動物園には「多領域を横断する伝統」が表れていると解説した。 多くのニジェール人は学校に行ったことがない、と同館長は指摘しつつ、「ここ(博物館)では出自や経歴にかかわらず、全てのニジェール人がこの国について見識を得ることができます」と語った。 アフリカの半乾燥地域サヘル(Sahel)の中央に位置するニジェールは、国連(UN)の人間開発指数(HDI)で189か国中、最下位である。世界銀行(World Bank)によると、1人当たりの年収は1040ドル(約10万9000円)、1日当たり2.5ドル(約260円)強だ。 加えて隣国ナイジェリアやマリからのジハーディスト(イスラム聖戦主義者)による反政府活動の浸透が、ニジェールの重荷となっている。 ■路上の子どもたちの博物館 コロナ禍前、博物館は年間10万人以上の訪問者を迎えていた。その多くは、西アフリカ固有の「タリベ」と呼ばれる子どもたちだ。 タリベの子どもたちは、親から送り込まれるイスラム教の教育施設でコーランを学ぶはずが、おおむね路上の物乞いとして日々を過ごすことになる。タリベの多くにとって、博物館は格好の逃げ場となる。 くたびれ汚れた服を着ていたイスマエル・マリアマ(Ismael Mariama)君(12)も、そんなタリベの一人だ。「動物を見に来たんだ。サル、ライオン、ワニとか」と語る。ニアメー市北部の荒廃した地区から来たというマリアマ君は、「みんな見ちゃった」とつぶやき、おりの中のサルにビスケットを与えた。 マリアマ君は、工芸品の展示コーナーにあった革製の靴にも興味を持ったという。ママネ館長が特に誇りとしているのが、その工芸品コーナーだ。 そこは彫刻家、画家、陶芸家、革細工師たちが作品を販売できるショーウインドーでもある。彼らは民族的に多様なニジェールの各所から集まっており、「国の結束」の象徴だと館長は誇りを持っている。 革細工師のアリ・アブドゥライ(Ali Abdoulaye)さんは、コロナで厳しい状況だが、博物館があるので助かるという。「この頃は、安い中国製品に職人たちが負けている…でも(中国製の)ハンドバッグは買って、2~3日で壊れてしまう」 メインホールの数メートル先にあるのが、人気の展示である恐竜時代の「怪物」3体の骨格標本だ。フランスの古生物学者フィリップ・タケ(Philippe Taquet)氏が発見した、全長11メートルの巨大ワニ「サルコスクス・インペラトル(Sarcosuchus imperator)」の化石もある。 ■改修・拡張 フランスから1960年に独立する直前に設立されたニジェール国立博物館は、海外からの寄付に助けられ、近く改修と拡張を計画している。 展示資金をスポンサーに頼るのは、世界の他の博物館と変わらない。ニジェール有数の鉱物資源であるウランがテーマの展示は、仏原子力大手オラノ(Orano、旧アレバ〈Areva〉)が資金を提供している。 その隣の展示は、ニジェールで近年発見された石油がテーマだ。この展示は、南部ザンデール(Zinder)の製油所の巨大模型が目玉で、中国石油天然気集団(CNPC)がスポンサーだ。 改修・拡張工事が終われば、動物園の111種の動物にとっても「改善された生活環境」になると博物館側は約束している。 映像は2020年12月撮影。(c)AFPBB News