奇才ギリアムのソロ監督デビュー作『ジャバーウォッキー』が4K版で再降臨。尽きることのないイマジネーションの原点がここに
レア度の高かった伝説作が4K版へと進化
世界の映画監督たちの中で、テリー・ギリアムほど長い時代にわたって奇想天外かつ素っ頓狂なイマジネーションをフルスロットルで解き放ち続ける人は滅多にいない。 そんな彼の創造性の神秘に深く触れたいなら、フィルモグラフィーですぐさま目に留まる数々のヒット作について掘り下げるのも一つの手だが、それよりも効果的なのは、まずは源流を遡って「初監督作」の世界観にどっぷりと浸かることだろう。 ただし、ギリアムの長編監督デビューについて語るときには注意が必要だ。なぜなら、それに該当する作品は2本あるから。一つはテリー・ジョーンズと共同監督を務めた『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(75)で、もう一つが今回ご紹介する『ジャバーウォッキー』(77)である。 後者はギリアムが”モンティ・パイソン”名義を離れ、晴れてソロで監督デビューを果たした記念すべき一作だ。実はこれ、日本ではレア度が高い作品として有名で、1980年に劇場公開されて以降、ビデオ化されたことはあっても、DVD化されたことが一度もなかった。そのためファンの間では、なかなかお目にかかれない名作として、存在そのものが伝説化していたのだ。 そんなギリアムを愛する人々に朗報である。この”知る人ぞ知る”名作が、このたび、マーティン・スコセッシ、ジョージ・ルーカスの出資による4Kレストアを経て、劣化していた元の映像素材からは想像できないほどの驚愕の映像絵巻となって、7月1日より日本の映画館に再降臨することとなった。
ストーリー重視で編み上げたかったソロ監督作
『ジャバーウォッキー』をごく簡単に説明すると、主人公が中世王国でバケモノ退治に巻き込まれていく物語である。もしもあなたがルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」を読んだことがあれば、その中にバケモノにまつわる同題のナンセンスな詩が登場するのをご存知かもしれない。ギリアムはこの詩から受け取った言葉の印象からイマジネーションを広げ、この壮大かつ素っ頓狂な中世王国を創り上げていったらしい。 ほかにも、製作の裏側には様々な事情が見え隠れする。例えば、彼は『ホーリー・グレイル』で、同じような「中世」をモチーフに映画を撮り上げており、その時に具現化できなかった即効性のあるアイディアをいくつも持ち合わせていたという。 さらに、彼はいわゆる”笑い”をメインに編み上げられたパイソンズ作品とは違って、もっと”ストーリーを語る”ことに興味を持っていたのだとか。そして『ホーリー・グレイル』では何かと自己主張の激しいパイソンズの面々を演出するのに苦労したり、なおかつテリー・ジョーンズとの共同監督の面で思い通りにいかないことも多かったため、「いつか自分一人で監督できたら・・・」という願望が膨らむのは当然だった。